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「ちょっと君達、いじめはだめだよ」
不意に口をはさんだのはサングラスをかけたおにいさんだった。
「誰ですか、おじさん」
「いや、僕が誰かは関係ないでしょ。いじめられてる人がいたら注意するよ」
その声に込められた叱るようなひびきとサングラスをかけた怪しい雰囲気にクラスの女の子達はひるんだようだった。
「な、なによ。幽霊が視えるなんて言ってるやつを妖怪って言って何が悪いのよ」
ややひきつった笑みを頬に張りつかせながら、ひかりと椎奈たちは逃げるように走っていった。
女の子たちが遠くまで行ったのを確認するとお兄さんは私の方に向き直った。
「大丈夫だった?」
「あ、ありがとうございました」
別にいつものことなので助けてもらわなくても良かったけど、一応お礼だけは言おうと思った。
私のお礼に少し笑みを浮かべてお兄さんはじゃあねと商店街の方に向かって歩き始めた。
笑いかけられたとき一瞬だけサングラスの奥の目が見えたが、どこかで見たことのある顔だった。
どこで見たんだっけと考えていると、はっと思いだした。
アイドルグループなにわきっずのメンバー、柊木祐樹君だ。
アイドルグループに特に興味があるわけではない。
でも柊木君が同じアイドルの女の子に熱烈アタックしていて、その子がなかなか振り向いてくれないと芸能ニュースで取り上げられているのを見たと思う。
アイドルがこの街で何しているのか気になった私はいけないとは思ったけど、柊木君の後を付けてみることにした。
しかし、柊木君の歩いて行った方向に行ってみても彼の姿は見つからない。
どうやら見失ってしまったようだ。
あきらめて帰ろうかとしていたその時あるお店の引き戸が開いて中から柊木君が出て来た。
付けてきたのがばれないようにそっと後ろから近づいてみると何だか元気のない顔をしてうなだれている。
「おれ、なんであの子のこと好きだったんだろ?」
ぶつぶつと力なく呟きながら歩いていく。
その姿が違和感に満ちていたので、私の興味は柊木君が出て来た店の方に移った。
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