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――パチン!
「――穀潰しの寄生虫の分際で、あんまり調子に乗ってんじゃないわよ!」
「……申し訳ありません、アンナさん」
ヨハンに誕生日を祝ってもらった後、数時間が経過した夜半の頃。
振り上げた右手で思いっ切り私の左頬を引っ叩く美麗の女性。彼女の名はアンナ――ヨハンにとって、唯一無二の最愛の女性だ。
別段、私が何かしたというわけではないと思う。そして、こんなことは日常茶飯事――強いて理由を挙げるとすれば、私の存在自体が気に入らないというところだろう。……まあ、当然と言えば当然かな。愛する男性と二人きりの空間を邪魔する異物――彼女にとって、私はそういう存在でしかないのだろうし。きっと、私の同居で彼女を説得するためヨハンは大変な骨折りをしてくれたのだろう。そう思うと、引っ叩かれた頬などより心の方がよっぽど痛い。それに、
「――っ!?」
ほどなくして、私の顔を見るやいなや逃げ出すように階段を上がっていくアンナさん。正確には、私の頬――自然治癒力なんて用語では到底説明がつかないほどに、瞬く間に腫れが引き元通りに修復していく私の頬を。ここまでが、大方のいつもの流れだ。……全く、こんな余計な能力がなければヨハンに泣きつくことも出来――いや、これ以上心配かけるのもよくないか。
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