殺風景に刃を

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「俺も授業がんばるから、与田も授業行けよ。さすがに2連続でのサボりは許さねーからな。一応俺学年主任だし、こう見えて」 「え」 「そうよ。俺、学年主任よ? 若いけど、優秀だから。モテモテの人気者だし」  顔周りでダブルピースを作った。  立ち上がらない私の腕を掴んで、無理矢理立たせる。私は小さな溜息を吐いた。 「学年主任なのに、立ち入り禁止の屋上で煙草吸って、女子生徒と手握ってたんですか」 「おー、言うな言うな。黙れ。成績落とすぞ」 「職権乱用だ」  先生がハハッと乾いた笑い声をあげた。長い前髪をかき上げて、しっかりと目が合う。綺麗な澄んだ瞳に若干の憂いを感じた。そういうミステリアスな雰囲気が女子生徒からモテるんだろうな。  先生が屋上のドアノブに手を伸ばしかけた所で、「あ、そうだ」と言った。 「与田さ、もし人間の温もりを感じたくなったら俺の所にいつでも来なよ。俺、死ねないから」 「はい?」  私は先生の顔を凝視した。この男は一体何を言っているんだ。 「あるだろ、人間の温もりが恋しくなる時。ハグまでならしてやる」  この教師は今自分が何を言ったのか分かっているのだろうか。 「あ、これまずい発言だったかな?」 「アウトですね」 「アウトかー。でもこれあくまで人助けの発言だって分かってくれるよな?」 「いや、ただ女子生徒と触れあいたい変態発言っていう可能性も捨てきれないですよ」 「おい待て待て、俺がそんな人間な訳ないだろ」  私は鼻で笑った。先生がムッとした口をつくる。   「そもそもこんなイケメンが、一回りも違う女子生徒に手出すほど女に困って無いんだよ」 「きしょ」 「きしょって言うな。関心意欲態度1にするぞ」 「職権乱用ですね、最低」 「お前が悪い」
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