殺風景に刃を

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 阿呆らしくなって教室から出た。数歩離れた時、教室からまたあの騒がしさが聞こえる。止まっていた時間が動き出したような。魔法が解けたような。  こんなの知ったら、いつだって私が悪者だなんて悲観的になってしまうのも仕方がない。だって私は死神だから。、呪われた運命を背負っているから。  立ち入り禁止の看板の横を通って、屋上に続く階段を上った。屋上のドアは開いている。立ち入り禁止と言われていても、誰かが鍵をこじ開けて中に屋上に出ているからだ。私も有難く屋上に出させてもらう。そろそろ中休みも終わるからか、屋上には誰もいなかった。確かにたった20分間しかいれないのに、わざわざ屋上には来ないだろう。  私は日陰に腰を下ろすと、首に提げていたヘッドホンを耳にあてた。少ししてから中休み終了のチャイムが鳴る。サボることに対しての罪悪感は無い。もう何回もサボっているし、先生も私がいない方が授業がやりやすいだろう。  ふと、煙草の匂いがした。私は日陰から顔を出して、壁の向こう側を見る。そこにはもう一つ日陰があって、壁から誰かの袖が見えた。左手に持つ煙草もちらっと見える。 「ここ禁煙ですけど」  思わず呟いていた。声に反応して誰かが振り返る。長い前髪からうっすら見える瞳がこちらを捉える。数学教師の浜田(はまだ)先生だった。気怠そうな感じとふざけた口調が親しみやすく、生徒からは「ハマセン」と呼ばれて愛されている。私が一番教師だ。 「おー、与田(よだ)じゃん。サボり?」  先生は立ち上がると、私のいる日陰までやって来た。私はヘッドホンを首に提げて、隣に座った先生から遠ざかろうとした。先生だけが唯一私と距離を取らない。普通に接してくる。だから嫌いだ。調子が狂うから。
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