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また白い煙がもくもくと空に上がっていく。私はその煙を追って、自然と視線が空に動いた。真っ白な雲がいくつも青空に浮かんでいる。煙草の煙が雲になったんじゃないかと思うくらい、何個も小さな雲が空に浮かんで流れていた。
「ねぇ、やっぱ暑いでしょ。ちゃんと日陰に入りなよ」
「いや、いいです」
「何? 受動喫煙気にしてんの? 分かったよ、もう吸わないから」
先生は煙草の火を消すと、「ほら」と言って自分の隣を手で叩いた。それでも私は動かない。先生がハァっと面倒くさそうに溜息を吐いた。
「死神だから気にしてんの?」
私は何も言わない。その姿を見て先生が私の腕に手を伸ばした。私の腕を掴む。私は反射的に腕を振り払った。驚いた顔で先生を見る。
「何馬鹿なことしてるんですか!!」
「あ、今の距離感アウトだった? 俺訴えられる? 教師生命終わり?」
「そうじゃなくて! 今私のこと触って──」
刹那、忌まわしき記憶が蘇る。小学生の時、学校で飼育していたウサギが死んだ時のこと。本当は飼育係しか触っちゃダメなのに、飼育係じゃない私が触った瞬間、ウサギが目の前で死んだこと。それから触ったものが何もかも死んでいくこと。周りから遠ざけられるようになったこと。
死神と言われるようになったこと。
「大丈夫だって。俺は死なないよ。ほら。ピンピンしてるでしょ?」
先生がマッチョポーズをして、真っ白な歯を見せた。私は目を丸くしてきょとんとする。いつもなら私に触れた瞬間、すぐに体に異常が出るのに。今目の前にいる先生の姿は別の意味で異常だった。
「俺死ねないんだよね」
「はっ?」
「だから死ねない呪いにかかってんの。そういう運命なの」
「何馬鹿なこと言って──」
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