殺風景に刃を

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「与田みたいに触れた者全部の命を奪う運命の奴がいるなら、何しても死ねない運命の奴がいてもおかしくないだろ」  さっきとは変わった真面目なトーンで先生が言った。思わず言葉が詰まる。口をパクパクさせて何か言いかえそうと思ったが、何も言葉が出てこなくて口を閉ざした。 「だから大丈夫。いくら与田が俺に触れても、俺が与田に触れても、俺は死ねないから。そういう運命なんですよ、残念ながら」  ん、と言って先生が私に手を伸ばす。私が首を少し傾げると、先生が私の手を掴んだ。私はびっくりして振り払おうとしたが、何も異常が出ない先生に気を取られて手の力を抜いた。 「本当に死なない……」  ゴツゴツとした大きな手からは、温かさが感じる。 「……いつからなんですか?」 「小6。車に轢かれそうになった時に、俺死んでもいいやって思っちゃって。そしたら骨折だけで済んで、命に別条はありませんって医者に言われて。多分、それが切っ掛けなんだよな」 「何で、死んでもいいやなんて思ったんですか」  私は少し怒りの交じった声で言う。どんな時でも、死んでもいいなんて思ってはいけない。命を軽く見てはいけないのだ。  先生はじっと私を前髪の隙間から見て、それからフッと笑った。 「クソみたいな親のせい」  遠くを見る先生が笑いながら毒を吐く。 「父親は他に女つくって小さい時に家出してって、母親はそれに病んで借金まみれに。男つくりまくって、俺に暴力振るって、金せびって。そんな親だったからかな」  私の手を握る力が強くなる。私が「痛ッ」と思わず声を出すと、ハッとしたように先生が私から手を放した。
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