殺風景に刃を

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「悪い。手握ってんの忘れてた。やばい。女子生徒と手握ってたなんて校長に伝わったら俺完全に終わるわ。絶対に言うなよ? 別に恋愛感情から手握ってた訳じゃねぇからな。俺は触れられても死なないよって証明するためだからな!」 「分かってます」  一気に真面目な雰囲気だった先生から、いつもの気怠そうな先生に戻っていた。本当に調子が狂う。私がハァっと溜息を吐くと、「何だよ」と先生が言った。私は首を横に振る。 「なんかすみません、嫌なこと思い出させて」 「ううんー、気にすんな。別に何とも無いし」 「でも、命を簡単に手放そうとするのはよくないです」  先生の目の色が変わる。ふざけた調子の姿から、一気に知らない先生になったような。怖い。私はぎゅっと拳をつくる。 「命は大事だから。生きたくても生きれない人もいるんです、この世の中」 「正しい。本当にそうだよなー」  ハッハッハッと先生が笑った。さっきの怖い先生は微塵も感じられない。「でもな」と先生が優しい口調で言う。 「この国が未だ自殺者が減らないのは命を投げ出したくなるほど、人生が嫌になる何かがあるんだよ。親とか友達とか学校とか恋愛とか。そいつらが感じている痛みを、お前に分かんの?」  優しい口調なのに、痛い。胸にズキズキと刺さる。刃で切り刻まれたような、全身に走る痛み。怖い。 「ごめん、怖がらせたな。いいんだよ、与田はそのままで。そういう正しい意見をこれからも持ち続けて。俺みたいに歪んだ意見を持つなよ」  チャイムが鳴り、先生が立ち上がった。「あー授業やりたくねー」と気だるげに言う。大きく伸びをして、日光を浴びた。
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