殺風景に刃を

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 先生はドアノブをひねって、屋上から校舎の中に入った。私も続けて中に入る。時計に目をやった。あと少しで次の授業が始まる。見た所何も授業用の資料を持っていないが、この男はこんなにも悠々と過ごしていて大丈夫なのだろうか。完全に遅刻する未来しか見えない。 「でも気が向いたら来いよ。俺ら2人が出会ったのも、きっと何かあるんだよ。せっかくならこの運命に乗っかっとこうぜ」  ニッと先生が笑った。私はツンとしたまま先生の横を通り過ぎた。 「気が向いたら。じゃ」  私が教室に向かおうとすると、聞きなれたチャイムが鳴った。次の授業が始まった。完全に遅刻だ。  ガッと誰かに腕を掴まれた。私が振り返ると、焦った顔をする先生が私を見下ろしている。 「何してるんですか、放してください」 「仲良く遅刻してこうぜ、相棒」 「相棒になった記憶ないですけど」 「待ってろ、俺今から職員室行って授業資料取って来るから。一緒に教室に行こう。な???」  圧を感じる。そういえば次の授業は先生が担当しているんだった。すっかり忘れていた。 「そこから動くんじゃねぇぞ? 俺急いで荷物乗って来るから。待ってろよ!! 先に教室行ってたら関心意欲態度1にするからな!!」  そう言って先生が猛ダッシュで職員室に向かっていった。私は後ろ姿を見てハァっと呆れた溜息を吐く。腕にはまだ先生に掴まれた感触が残っている。命あるモノの独特の温かさ。久しぶりに感じた。私は少しだけ口角を上げた。  確かにこの運命は呪われている。大嫌いだ、こんな運命。でもこんな運命だからこそ、もしかしたら先生が言ったように、私たちは出会うべくして出会ったのかもしれない。不幸な運命を背負った者同士、この運命を変えるために。  代わり映えのしない毎日。私だけに見える殺風景。そこに刃が突き刺さってできた隙間から、新しい景色が見えたような気がした。
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