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双眸から目が離せない。
サクヤはその中へ、途方もなく巨大で底なしの穴に、落ちていく。
己の思考が逆しまに渦を巻き、奔流が狂わせようとする。
その時、テクタイトが、ふっと笑って硬直するサクヤに手をのばし、片手で目を覆ってきた。
彼の瞳が視界から消えたことによって、呪縛から解き放たれて正気に戻った。
全身に力が入り、歯が折れそうなほど食いしばっていたと気がつく。
テクタイトは再び身を離し、サクヤに背を向けた。
「体の相性というのがあるからな。合わぬのなら仕方がない。無理に付き合わせるつもりはないぞ、桜公。今後は呼びつけん。ゆっくり休むといい」
穏やかな口調になると、その声もさほど異様な響きとは感じられなかった。
「……私を捨てると仰るのですか?」
小さな声を聞き逃さず、テクタイトがこちらを向いた。
「おかしなことを言う。お前が音をあげたのであろう」
「それは殿下の早とちりです。試したのですよ。私が身を引こうとしたら、惜しがってくださるかどうか」
サクヤは顔にかかった髪も払わず、裸のまま艶然と笑って見せた。
「あんまりでございます。私から他の男に乗り換えるなどと仰るとは。お恨み申し上げますぞ。このサクヤ、執念深い男として知られておりますからな。お気をつけなさいませ」
「たらふく私の力を蓄えたのではないか?」
「まだ欲しゅうございます」
即座にサクヤは返答する。
テクタイトは虫酸の走るような薄笑いを浮かべていた。何もかも見透かされているのだ。力を奪っていることも、赤薔薇に対する想いも。
雁字搦めにして、なぶろうとしている。
サクヤはここで引いても引かなくても苦しむ羽目になるだろう。
だとしたら、退くのはやめだ。
「殿下の愛人の座は、誰にも譲りませぬ」
憔悴して強がる桜を、この男はどう見ているのだろうか。だがどれだけ見下され、玩具にされても構わなかった。
「では望み通りに食わせてやろう。手をついて腰を上げろ」
一度目を閉じてから、くたびれた体を動かした。今から始まる行為の苛烈さを思うと、さすがのサクヤもうんざりして顔が強ばる。それでも意地を張るのは忘れずに、せいぜい淫らに見えるよう形の良い尻を挑発的に高く上げた。
腰をつかまれ、すぐに挿入された。王子の剛直が容赦なく前後に動き、否応なしに感じたサクヤは声をもらした。
「っ……んんっ……あ、ぁ……! 殿下……ッ」
疲れ切っていても体は快楽にあらがえない。優しくはなくしかし暴力的とも言い難い動きは、サクヤを翻弄した。
嫌悪感より欲が勝る。冷静になろうとするのに内側から突き上げられると、一番弱いところを崩されて涙が出てくる。わけがわからなくなってくる。
淡紅色の長髪が敷布を彩り、愛なく咲いた交合の白い花弁が寝台から落ちていく。
「安心しろ。もしもお前が耐えきれずに心が壊れたら、私が操ってやる。傀儡という立場も楽で、悪くはないぞ」
「はぁっ、や……ぁああ、ぃや……あ、あ」
中をかきまわされ、「やめて」と言おうとしているのに口から出たのは「もっと」という要求だった。
壊れてたまるか、と嵐が過ぎるのを待つ。
「桜公、言ってみるがいい。本当は誰にこうされたいのだ?」
一瞬、深紅の色が目の奥で散って、サクヤは奥歯を噛みしめた。あの花の芳香を感じた気がして動揺する。
「ち、違……」
「そいつに抱かれているところを想像してみるといい」
涙がぼろぼろと両目からこぼれて滴った。息を乱し、敷布を強く握りしめ、正気を保つ努力をする。
――舐めやがって。
想像以上の化け物で、力の差は歴然であった。
しかし勝機はある。こいつは周りを舐めきっていて、必ず油断が生じるだろう。せいぜい図にのらせておいて、いずれ隙をついて叩く。
これしかない。
絶対に屈しない。屈辱と恨みは力に変えて、必ず一矢報いてみせる。
(俺は、好きでこうしているんだ。絶対にこいつの思うままにはさせん)
(犠牲になってるつもりはない。誰かの身代わりでもない)
(俺は……だから……これは、復讐で)
夜闇に、愛のない花が何度も何度も咲いていく。
激しい交接の最中、切なげに自分の口からこぼれた名前は、聞こえなかったことにした。それこそ、口走ったと認めたら、気絶するまで我が身を殴ってしまいそうだから。
「……ローザ……………」
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