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全員の刺すような視線が俺に集中する。俺が何と言っていいか分からす黙っていると、浩介が口を開いた。
「橙吾、どういうことだよこれ。これが幸本さんの本音なのか?」
「昨日呼び出されたんだ。家に行ったら荷造りも何一つしてなくて、手伝えって言われるのかと思ったら……それだよ。でもまさか録画されてるなんて……」
狼狽える俺に浩介は厳しい声を投げつける。
「それなら昨日のうちに無理やりにでも連れてこいよ。保人さんも映像だけ受け取るんじゃなくて、彼を連れて来てくださいよ」
保人くんはオロオロしたままかろうじて口を開く。
「え……と、僕……は幸本さんに会ってないんだ。家に行ったらこれを見せてくださいって置き手紙だけ置いてあって。だから……」
浩介が怒る事自体が珍しいだけに、俺も保人くんも意気消沈してしまう。浩介が申し訳無さそうに磯村さんに向き直る。
「磯村さん、今日のところはとりあえす家に戻りましょう。これからどうするかはまた考え直したほうがいい」
俯き涙を流す磯村さんの肩を菊池さんが支える。
「悠美、とりあえず帰ろう」
菊池さんの言葉に被さるように、磯村さんの携帯電話が鳴り出した。電話の発信元はお母さん、とある。だけど磯村さんはなかなか出ようとしないので、菊池さんが代わりに出る。
「お母さん、あ、すみません、菊池です。今一緒にいるんですけど、ちょっと悠美さん体調崩したみたいで、今休んでます。……はい、大したことないので大丈夫です、少し遅くなるかもしれませんが責任を持ってお送りしますので。……はい、分かりました。いえ、お気になさらないでください。……はい、ではまた」
予定では駆け落ちを告白するための電話だった。それは菊池さんによって大事にならずにやり過ごすこととなった。
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