お薬でちゅう

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 良薬は口に苦し?  そんなことあるか!  王子様のキスで呪いが解けたりするじゃん。  キスすると気持ちよくなれるじゃん。  つまり!  キス。良薬は口に甘し! 「い、意味不明……」  唇を尖らせて見せてくる健一に私は嫌々した。 「私の唇に狙いを定めるのはヤメロ」  健一は鼻息を荒くした。 「ふんふん。はっはっ。俺の卒業論文のためだ」  健一は馬鹿犬みたいにハッハッと舌を出した。  どんな卒論だ?  うそだ。  あんたは溢れる性の欲求を満たしたいだけなのだ。  ケダモノか。コイツはホントにヤバい。  私の女性としての本能が警告を鳴らした。 「はいはい。あんたには別のお薬が必要みたいにね。さっさと病院に行って、そこでお薬の時間を決めてもらえ!」  馬鹿につける薬はないだろうけど。 「チュウしたいしたい。うわーん!」  ひっ。嫌でも私の唇を奪おうって言うのか……。 「そう。チュウしたいのね?」 「ハッハッ」  キスが出来ればそれでいいのか。 「よろしい。では私の卒論にも協力して」 「ん?」 「宇夫方クン、カモン!」  私はある研究の対象にしている男子学生の名を呼んだ。 「呼んだかい?」  名を呼ばれやって来た彼は耽美系であった。女の私から見てもうっとりするほどの線の細い美しさを持っていた。  一方、健一には野性的な魅力があった。頭の程度は、 「あの? チュウしたいって話なんだけど?」  こんなものであったが。 「健一。今からあんたは宇夫方クンとキスなさい」 「……お。え?」 「大丈夫。あんたは彼の好み。性別が同じであっても気持ちが一致すれば……、どのような行いも関係ないのでーす」 「……ん。はい?」 「LGBT、LGBTQとは何か? それが私の卒論。永遠の研究テーマ」 「LGBTってそういうのじゃねえだろ。無茶苦茶な展開を都合よくその言葉にこじつけてないか?」  そう言われるのはもっとなことだ。 「お前が興味あるのはボーイズラブのBLなんじゃあ……」  バレたか。  宇夫方クンが叫んだ。 「キスの甘さに性別の差などなーい!」 「は、はい!?」 「証明しよう。君と僕で……」  宇夫方クンは電光石火で健一と唇を合わせた。  耽美系と野生児のKISS。あ、はい。ふう。 「どうだ? 健一。キス。それは唇に良い薬だろ?」 「ん、あ……こ、こいつ……」  健一はトロンとした表情で言った。 「テクニシャン……がくっ」  そう言って気絶してしまった。 「眠り姫だな……ふははは。ペロリ」  倒れた健一を舌なめずりして見下ろす宇夫方クン。  これで王子様のキスで目覚めれば、キスは良薬であり、良薬は口に甘しと――。 <終わり>
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