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「お前、本当にそれでいいの?」 高校の同級生だった川上耕太にそう言われたのは予備校のラウンジだ。 ふとした瞬間に思い出すのだが、耕太の表情が思い出せない。 どうしてあの時、耕太の言葉を聞き流してしまったのだろう、 と、強い後悔とともに思い出す。 私はよく夢を見る。 しかも、夢物語のようなものではなく、現実のような夢だ。 もちろん、夢なんて起きて少し時間が経つと忘れてしまうので、深い内容は覚えていない。 でも、定期的に見る夢でいくつか鮮明に覚えているものがある。 その中の一つは、大学で学期末試験を受けるのにすごく焦る、というものだ。 「あ~これじゃあ、試験通らない。」 「単位取れないかもしれない。」 そんな気持ちを持ったところで目が覚める。 起きてから、良かった夢だった、と安堵する。 今年31歳になろうとしている私に、 大学時代の勉強をもう一度するのは無理だ。 いつも夢から覚めるとそんな不安が押し寄せる。 もう終わっているから心配することは無いし、心配したって仕方ない。 大学は、理系に進学し、情報工学を学んだ。 今思えば、本当にそれで良かったのか疑問だが、当時はそれなりに楽しくやっていた。 無事に単位を取り、ストレートで卒業をし、就職もできた。 結果が良ければすべてよし、と、とりあえず締めくくることが出来た学生生活だったと思う。 高校時代に得意な科目は数学だった。 進学に理系を選んだのも数学が好きだったからだ。 文系の受験科目を真剣に勉強する気になれず、勉強を進めるならば理系しか考えられなかった。 数学が好きだったので、数学科への進学を希望していたのだが、やめた。 「研究者になるならば良いが、将来仕事に就くことを考えたら別の学科の方が幅が広がる。」 と、当時の担任からアドバイスを受けたからだ。 それならば、学校の先生を目指せばよいのでは、と考え、小学校の先生になることを目指そうと決めた。 いくつもの学校がある中で、私は国立大学の教育学部を目指すことにした。 現役では、合格できず、浪人をした。 どこでも好きな人を作る私には、浪人の時に通っていた予備校にも好きな人がいた。 その人も私に興味を持ってくれて、一緒にいる時間が増えていった。 次第にその時間も楽しくなってきて、勉強もしていたが、 その人との時間も楽しんだ。 付き合っていなかったので、深い関係にはならなかったが、 何となく予備校内だけの両想いといった関係だった。 私は両立していたつもりだったが、耕太からはそう見えていなかったらしい。実際のところ、中々成績の伸びない自分が情けなくい気持ちがあった。 だから、現実逃避したかったのかもしれない。 目の前にある輝く光に目を瞑ったのだ。 そんな時、耕太が私に言ったのが最初の言葉だ。 そもそも、どうして耕太が浪人している私に構っていたのか分からない。 当時も今もずっと分からない。 高校時代の同級生からは「さゆりの事が好きなんじゃないの~」 と、言われていたが、そうではないと思う。 浪人が決まり、予備校に通うだけの日々が始まって少し経ってから、 耕太は私に会いに予備校に来るようになっていた。 特に理由はないが、何故か、私の成績表を確認しに来るのだ。 「全然足りてねぇじゃん。」 「そうなんだよね、全然足りない。」 「頑張れよ、とりあえず帰るか。」 と、テストの結果が配られる日には必ず来て、一言二言コメントを付け、一緒に帰った。帰り道は、耕太の大学の話を聞いたり、彼が今狙っている子の話を聞いたりした。 その話を聞いても嫉妬もなかった。 お互いに特別な感情を抱いている雰囲気もなく、ただ一緒に帰るだけだった。 ある日の帰り道、 「この前デートしたんだ。」と、耕太が自慢してきた。 「大学生のデートってどんな感じなの?やっぱり、色々するの??」 と、少し興奮している野次馬な私に 「お前は知らなくていいんだよ。まだ早いだろ。」と、耕太は少し照れていた。 大学生ってすごいんだな、と思った。 「川上は大人だね~。」 「岩渕だって同い年だろ。」 「そうなんだけどさ。やっぱり、一歩先に進んでると違う世界にいる人みたいだよ。」 「頑張って、こっちに来いよ。」 「そうだね、頑張らないとね。」 確か、あの日はラーメンを食べて帰った日だった。
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