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私が耕太に出会ったのは、中学三年生の時だ。 初めて同じクラスになった耕太は、サッカー部に所属する活発な生徒だった。 誰とでもフランクに話が出来る、いわゆるモテるタイプだ。 少し前から顔は知っていたが、同じクラスになったことも無かったし、話をする機会も無かった。 中学二年生の時に、同じ学年同士で初めてのカップルができた。学年中がその話題で持ち切りだった。 私も怖いもの見たさと同じような気持ちで、話を聞いた。 両想いってすごい。 私には、付き合うということより、お互いに好き、ということの方が羨ましく思えた。 その彼女の亜希ちゃんと中学三年生で同じクラスになった。 彼氏の杉崎は他のクラスだったが、もちろん彼女のクラスに遊びに来る。 その杉崎がサッカー部だった。 杉崎は、クラスに入る瞬間に大きな声で、 「よう!耕太ー!」 と、声をかけるので、自然と耕太の方に視線が集まる。 杉崎の影響で、私も心の中では「耕太」と呼んでいた。 爽やかに笑う顔、部活で日焼けをした肌。 そして、いつも友達に囲まれている耕太は、 よく窓側に座っていたからなのか、光を放っているように見えた。 キラキラ輝くその光は、何色だっただろう。 その瞬間にどこか遠くに飛ばされてしまいそうなくらい、惹き込まれた。 目が離せなくて、凝視してしまった。 ある日、亜希ちゃんからクラスの女子に 「サッカー部の試合を観に行かない?」と、お誘いがあった。 断る子もいたが、私は参加することにした。 結局、6人の女子が集まった。 学校が休みの土曜日、私服で学校に向かうのは少し恥ずかしかった。 前日から一生懸命選んだ服を着て学校に着くと、グラウンドには、準備を手伝う親の姿があった。 その中の一人が亜希ちゃんに声をかけた。 おそらく杉崎の親なのだろう。 小学生の時とは違い、同じ学校の友達の家に遊びに行くことが無かったので、友達の親の顔はほとんど知らない。 私たちも「こんにちは」と挨拶をした。 杉崎の親の隣に立ち、私たちを紹介している亜希ちゃんが大人に見えた。 少し高台になっている壁の部分に腰掛けて、試合を見ることにした。 ここからは、グラウンド全体が見える。 私はサッカーのルールを全く知らない。 だから、必死にボールを目で追った。 ボールの先に耕太が見えた。 「川上ーーーー!!!」 と、自然に声が出て応援をしていた。 周りも大きな声を出していたので、目立たなかった。 良かった。 試合は負けてしまった。 戦ったチーム同士が挨拶をした瞬間、胸が熱くなった。 亜希ちゃんは杉崎を待つというので、他の5人で先に帰ることになった。 帰り道、試合を見た私たちは興奮が冷めなくて、駅近くのファストフード店でお茶をすることにした。 「カッコよかったねー!」 「すごかったよね。」 「私、ルール分からなかったけど感動しちゃったよ。」 「普段の姿と全然違うから、誰が誰か分からなかったー!」 と、口々に今日の感想を話す。 その時、耕太の名前が出た。 「川上、やっぱりカッコよかったよね。」 一人が言うと、 「ね~!!!」 みんなの声が一斉に黄色くなった。 「いわぶー、声出してたもんね!」と言われたのでとっさに、 「みんなも叫んでたじゃん。」と、私だけじゃないアピールをした。 その後もサッカー部の話で盛り上がり、私たちだけワールドカップを見てきたような興奮に包まれていた。 まだまだ話足りなかったが、時間も遅かったので帰ることにした。 ホームに降りると、片付けをして帰ってきたサッカー部と一緒になった。 さっきまで話題にしていたメンバーが現れたので、照れくさくなって、 私たちはサッカー部とは少し離れた車両に乗り込んだ。 一人降り、二人降り、乗り換えをして、自分の最寄り駅へと向かう電車に乗り込むときに、たまたま耕太と会った。 「みんなで来てくれたんだね。」 「うん。亜希ちゃんが声かけてくれたんだよ。」 「そうなんだ。やっぱり大勢が応援してくれると嬉しいよな~。 親は観に来てくれるけど、女子が来てくれると気持ちが上がるな。」 耕太は、そうやって女子が嬉しくなることをさらっと言ってくれた。 私に対して言ってくれた言葉ではないのに、 「ありがとう。」と、お礼を言ってしまった。 間違えた、と思い話題を変えようと早口になとた。 「ルールが分からなくて、ボールを追うだけで必死だったよ。」 耕太と目を合わさないように、出来るだけ自然に、外を眺めた。 「それでいいんだよ。あまりたくさん知ってると、楽しくないじゃん。楽しく試合を観てくれている方が嬉しいよ。」 耕太は目を合わせようと、私を覗き込むように見て、笑った。 そうなんだ、と言いかけたところで、耕太の最寄り駅についた。 「ここなの?」 「そうだよ、岩渕はもっと先?」 「私はあと3つ先の駅。」 「そうなんだ。気を付けてな。」 耕太はどこか嬉しそうに、降りて行った。 その日の試合が、中学サッカー部としての最後の試合だった、というのを週明けに亜希ちゃんから聞いた。 「えっ、そうだったの!?」 「最初に話しちゃうとみんな意気込むから、秘密にしてたの。ごめんね。」 てへっと笑う亜希ちゃんは可愛かった。 私の中では、電車で話した耕太との会話が思い出されていた。 最後の試合に負けたなんて、悔しいに決まっている。 それなのに、私たちが観に行ったことを喜んでくれた耕太。 「そんな、亜希ちゃんが謝ることじゃないよ~」頭では全然違うことを考えながら、会話を続けた。 教室を見渡すと、いつも通り友達に囲まれて笑っている耕太が見えた。 やっぱり、そこだけ光が放たれていた。 きっと、私は、この瞬間、 耕太を好きになったんだ。
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