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オリエンテーリング当日。
快晴でまさに遠足日和な天気だ。
ジャージ姿で動物公園に集合した私たちは、どこからどう見ても遠足だ。
恥ずかしいけど、とても楽しみだ。
まず、公園内を一周してから、昼ご飯を作る。
その後、各班ごとに今日の気付きを発表する。
これが今日のスケジュールである。
公園を一周するのに、どのくらいの時間がかかるんだ、というくらいに広い園内には様々な仕掛けがしてあるらしい。
学年主任主導のもと、担任一同が一生懸命に考えた仕掛けだそうだ。。
子供じみたものだろう。
だけど、少し楽しみだった。
「それでは、皆さん無理の無いように。
何かあれば先生たちに連絡をするように。」
オリエンテーリングが始まった。
「川上くん、いないねー。」
彩香が残念そうに、眉毛を下げながら言うと、
「川上、モテるよな。やっぱりあの爽やかな雰囲気がいいのか?」
と同じ班の男子が話に乗ってきた。
「俺らじゃ、あれは出来ないよなー」
この会話をきっかけに私たちの班は会話が弾むようになった。
同じ班になった男子チームは水泳部で、中学から同じだったそうだ。
その中に三浦君という子がいた。
三浦君はお姉さんがいるそうで、
とても物腰の柔らかい優しそうな空気に包まれていた。
「三人は同じ中学だったの?」
「ううん、違うよ。だけど、彩香が話しかけてくれたの。
話題は川上のことだったけどね。」
「ここでも、川上が出てくるんだなー!」
三浦君が笑った。
私も思わず笑った。
公園を一周するのに、三時間以上かかった。
仕掛けは大したことなかったが、それでも私たちは真剣に取り組んだ。
その間、私は三浦君と一緒に歩いていた時間が長かったからか、
自炊の時間になっても一緒に作業をしていた。
お昼ご飯はカレーだ。
各班ごとにかまどが割り振られており、野菜など必要なものも置いてある。
そこで昼ご飯を作り始める。
「三浦君、いい感じじゃない?」
私が野菜を洗っていると、彩香が話しかけてきた。
「そんなことないよ。ただ話してるだけじゃん。
三浦君、お姉さんがいるらしくて、他の男子より話やすいよ。」
「そうなんだ。じゃあ、私も話してみようかなぁ。
これ、洗い終わってる?
これ先に持っていくねー!」
と、言いながら彩香が先にかまどに戻った。
私が残りの野菜を洗い終え、かごに入れた時、
「そこの水道空く?」と、耕太が近づいてきた。
「空くよ。他、埋まってるの?」
「ここ、水道少ないんだよなー。
かまどはいっぱいあるのに、水道少ないってどういうことだよな。」
「確かにそうだね。」
「班で仲良くなれた?ま、生田と友部がいれば、お前は楽しいか。」
何か少し悔しかった。
「散策中に他の子ともたくさん話したよ。
特に三浦君とたくさん話した。今、彩香が話してる子。」
そう私が伝えると、耕太はおもむろに私の班のかまどを探して
「あー、あいつ。いい奴そうじゃん。」そうぶっきらぼうに言った。
「すごく優しかったよ。」
「ふーん。良かったな。」
私は野菜を入れたかごを整えつつ、耕太に聞いてみた。
「川上は、皆で仲良くなれた?」
「もちろん。俺らはコミュ力高いからなー。
今の女子の流行りはバサバサのまつ毛なんだって。」
えー!私は思わずまつ毛を触った。
その仕草が恥ずかしくて、顔を赤らめた。
そんな私を見て、耕太は大爆笑をした。
「岩渕、化粧してないじゃん。」
目に涙をためながら必死にそう言うので、
私も笑いを抑えきれずに二人で笑った。
かまどに戻ると、彩香が
「今、川上君と何話してたのー?」と、面白そうに聞いてきた。
「いや、何か今日の散策どうだった、とかそんな話だよ。」
「それにしても、楽しそうに話ししてたじゃーん!
私も話かけて来ようかな。」
「行ってきなよ。今、野菜洗ってるよ。」
「行ってきまーす!」
彩香がウインクをして、スキップをするように、
軽やかに耕太のところへ行った。
さっき三浦君と話してたじゃん。
「あれ、生田さんは?さっき野菜取りに来なかった?」
かまどの準備が終わったのか、三浦君が彩香と野菜を探していた。
「今、川上と話してるんじゃないかな。水道のところにいるよ。」
と指をさすと、
「そっかー。もう少ししたら、呼びに行くか。」
「私呼んで来ようか?」と、彩香のところに行こうとすると、
「別にいいよ。野菜あるなら、生田さんはそのままで大丈夫。」
と、三浦君が私を止めた。
どうやら、必要なのは野菜だったようだ。私は少しほっとした。
飯盒炊飯で炊いたご飯だったからなのか、
カレーはいつもよりも美味しく出来た。
5合のご飯を、皆で一瞬で食べた。
ご飯を分け終わり、空になった飯盒に水を入れようと、水道に向かった。
焦げてこびりついているお米は、水でふやかすと取れやすいからだ。
もしかしたら、偶然でも耕太がいるんじゃないかな、と淡い期待をしていたが、耕太は自分の班で楽しそうに笑っていた。
戻ってくるなり彩香が、
「さっき、川上君と話できたよ!」と、小声で教えてくれた。
「私、川上君のこと好きになっちゃった!!」と、こちらも小声だった。
「え、早くない?」
「だって、さっき話してて楽しかったし、良かったもーん。
それだけで十分じゃない?顔もかっこいいし。」
彩香の表情は普段話をしている時とは違って、色っぽかった。
「えー、何、何ー?」
麻友も参加して、少しだけ三人で恋バナをした。
片付けようか、という時
「この飯盒に水入れてくれたの誰ー?」と三浦君がみんなに聞いたので、
「私だよー。」と手を上げたら、
「お、気が利くね、ありがとう。」と、お礼を言われた。
彩香が、
「何で、ありがとうなの?」と不思議そうに聞いたので、
「焦げてこびりついたご飯はすぐに取れないから、水につけておくといいんだよ。」と、三浦君が私に「なっ。」と目くばせをしながら答えた。
私は嬉しかった。
「そうなんだね。さゆちん、ありがとう。」と、彩香が笑顔で私を見た。
彩香は、顔が可愛い。
もちろん、麻友も可愛いのだが、彩香の方が雰囲気も可愛いのだ。
だから、にこっと笑うとこちらまで心を奪われそうになる。
ゆるく巻いた髪も、可愛いに拍車をかけ、超絶可愛いと思う。
「三浦君、よく知ってるねー!よく料理するの?」
彩香が三浦君と話ながら、水道へ向かって歩いて行った。
飯盒に水を入れたのは私だったのになー、と思いつつ、
麻友と一緒にかまど周りを片付けた。
「さゆちん、三浦君のこといいの?」麻友が心配そうに聞く。
「えっ、何で?」私が驚いて聞き返すと、
「だって、三浦君といい感じだったじゃん。
てっきりもっと仲良くなりたいのかな、と思ってさ。」
「全然、そんなことないよ。他の子と変わらないよ!
まだよく知らないし、皆で色々話せたらいいなって思ってるよ。」
「そっか。それなら良かった。」
麻友は安心した表情で、
ゴミを捨ててくる、と言ってゴミ捨て場に行った。
そっか、もっと話がしたいっていうのが好きってことなのか。
高校生になり、好きの延長に付き合うというものがある、
ということは知っていた。
好きって思ってるだけでも十分楽しいのに、付き合うって何だろう。
中学生の時、亜希ちゃんと杉崎は付き合っていた。
良く一緒に帰っているのを見かけたし、よく二人で一緒にいた。
だけど、それ以外に何をしていたのか私は知らなかった。
「付き合ってるんだよ。」
「えー、すごーい!!」
で終わっていた私には、付き合うって何をするのか分からなかった。
帰りに彩香が、
「三浦君、いいね。」と、少し顔を赤らめて話をしてきたので、
「彩香、川上のこと好きって言ってたじゃーん!」
麻友と同時に突っ込んだ。
オリエンテーリングは、何事も無く終わった。
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