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Ⅴ
時間は瞬く間に流れ、気が付けば夏休みに入る前日。
入学して数ヶ月しか経っていないのに、学年で何組ものカップルが出来上がっていた。
彩香も麻友も、もちろん私も彼氏はいなかった。
夏休みは長い。
宿題もたくさん出るし、休み明けには定期試験もある。
それでも夏休みには、心を躍らせる何かがあった。
「夏休み中は、色んな場所へ遊びに出ると思います。
くれぐれも安全に気を付けてください。
何かあってからでは遅いですからね。もし何かあった場合、、、、、」
担任が、この先永遠に続くのではないだろうか、と思わせるような話をしていた。
うちの担任は話が長い。
この話が終われば、夏休みが始まる。
「さゆちん、浴衣買ったー?」
「ふ、ふ、ふ。買ったよ!」
「え、何色の!?私まだだから、どうしようかな。」
「私は黄色だよ。淡い黄色!」
「彩香はさ、ピンクの浴衣似合いそうだようね。」
「そうかなー?麻友ちゃんは藤色かな。」
「藤色!?!?!?え~、、、」
三人で花火大会に行く約束をしている。
ちょうど夏休みの真ん中あたりに行われる大きな花火大会だ。
私は一つ期待していることがあった。
花火大会が行われる場所の最寄り駅は、耕太の家の最寄り駅と同じだった。
もちろん、サッカー部が皆で花火大会に行くことは知っている。
この状況で期待せずにはいられないだろう。
そう、偶然会えるのではないか。
耕太の最寄り駅は二人には秘密にしていた。
どうしても、私だけが知っていたかったからだ。
中学生のあの時の事は私と耕太しか知らない。
それが何よりも嬉しくて、くすぐったくて、周りよりも、一歩先に出たような気持ちにしてくれた。
「じゃーねー!また連絡するねー!!」
「うん、またねー!」
「じゃあね!」
駅で彩香たちと別れ、
これから始まる長い長い休みをどう過ごそうか、と考えた。
先に宿題を終わらせてから、気持ちを軽くして夏休みを過ごしたい。
せめて、花火大会を迎える前には宿題を終わらせよう!
と、決心を固めた時だった。
「岩渕、数学得意だよな?」
「うわっ、何、急に。」
耕太が上から話かけてきた。
高校生になり、ぐんと背が伸びた耕太はすっかり私を見下ろすくらいの大きさまで、身長が伸びていた。
「数学?得意だよー。」
「高校生って宿題多くない?
これやりながら、部活して、遊ぶなんて。俺らのこと何だと思ってるんだろうな。」
「そんなの先に終わらせたらいいじゃん。」
「お前ね、そんなに簡単じゃないよ。この量をどうやって終わらせるのさ。」
「そうだねぇ、、、誰かと競ったらいいんじゃない?
敵がいれば頑張れるかもしれないよ。サッカー部の皆とかと。」
「あいつらとはサッカーだけがいいんだよ。
サッカーと真剣に向き合う仲間なんだから。」
「いいな~青春って感じだね。」
「いいだろ~。しかし、青春って何だろうね。」
「何か、キラキラしているやつだよ。キラキラしてるやつ!」
気が付いたら、次が耕太の最寄り駅だった。
「そうだ、お前と競うか。宿題。」
「えっ?嫌だよ。」
何で私はいつも反射的に、断っちゃうんだろう。ここで、私でいいの?、とか言えたら可愛いのになぁ。
長い休みに耕太と会えないなら、今日が休み前最後だなー、と寂しくなった。
花火大会のことは、すっかり忘れていた。
すると、耕太からまさかの提案があった。
「数学得意なんだろ。じゃあ、教えてよ。」
「いいけど、、、」
「俺、古文は得意だから、こっちは教えられるよ。」
「ありがとう。じゃあ、教え合いっこしようか。。」
少しすかした感じになってしまった。
「やったね、ラッキー。じゃあ連絡先教えて。」
私たちは、連絡先を交換した。
「また連絡するよ。気をつけてな。」
耕太は嬉しそうに降りて行った。
え、何が起こった?
まずは今、起きたことが現実か確認するため、新規登録されたであろう連絡先を確認した。
“川上耕太”
きちんと登録されている。
ん?宿題を教えるってことだよね。
ってことは、夏休み会えるってこと!?
えーーーーーーーーーーーーー!
大きな声を出せないので、目を思いっきり見開いた。
気持ちは、
「きゃ~!!!!!」と叫んでいる。
どうしよう、どうしたらいいんだろう。
誰かに話したいけど、秘密にしたい。
だって、だって、、、
夏休みに耕太に会えるんだ。
これは何かが始まる予感がする。
いや、始まらないはずがない。理由のない自信が溢れてきた。
この夏休みに、何もなければ、このまま友達止まりだろう。
でも、大丈夫。きっと、何かある。
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