源氏断絶

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 若い叔父によく似た、すべてを見通したかのような澄んだ仏の顔に、何度も問いかける。  あなたが、私の父上を殺したのですか?  ―そうだ。  嘘だ!あなたは、あの時まだ子供だったはずだ!  ―将軍の私の名が用いられた以上、私がやったということだ。  あなたも、北条の祖父に廃されそうになったというのに。何故北条を許せるのですか!  ―許すのだ、将軍だから。  和田との戦だってそうだ!あなたが好んでやったことじゃないのに責めを負わされて!  ―背負うのだ、耐えるのだ、将軍だから。  弟を、栄実を殺すよう命じたのもあなたですか?  ―そうだ、私が決めて命じた、将軍だから。  何故北条を、武をもって倒そうとしないのだ!私の父上だったら、きっとそうしている!  ―生かすのだ、世に必要だから。  殺すんだ!北条を!あなたに源氏将軍としての誇りがあるのなら!  ―源氏将軍は私の代で終わらせる。  どういうことだ⁉  ―源氏はあまりに多くの血を流し過ぎた。次の将軍には、京より親王様をお迎えする。神聖な皇家であれば、臣下が血で汚すという最悪の事態は起こらぬであろうから。  源氏の血を断絶するなど、我らが父祖への冒涜だ!  ―源氏の血を完全に絶やすわけではない。そなたの妹を親王様の御息所として、その血統をつないでいくことにした。  源氏には俺がいる!  ―源氏の男の血は、争いの種にしかならない。だから、男はやめて、女の血を残すことにしたのだ。北条の血も残る、母上も北条の叔父御も納得した。  次の将軍は俺がなるべきだ!  ―将軍は私である!そなたではない!私が決めるのだ!  ならば、俺はあなたを殺して将軍になる!  ―私を殺して将軍になって、そなたは何をするつもりなのだ、何がしたいのだ?  そんなのはどうでもいい!あなたは、私の父上のかたき、源氏の裏切り者だ!だから殺す!  ―私はそなたの義父でもある。朝臣でもある右大臣を殺すということは、朝廷への謀反でもある。親殺し、主殺し、朝敵、これほどの重罪人を、次の将軍と認めるものなどいない。  俺は将軍だ!だから、何でもできるし、何でもやっていいんだ!  ―それは違う。良き臣の補佐を受けて、最後は自分で決断を下し、その責を負う、それが将軍の務めだ。  うるさい!うるさい!俺が四代目だ!  銀世界の闇の中、気づいた時には、若い叔父の首を掻き切っていた。  親殺し、主殺し、朝廷への謀反を犯した重罪人は、将軍となることなく、己が首をもってその責めを負うことになった。
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