case2. 女ともだち

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case2. 女ともだち

 中学、いや、小学生以来の友だちである菜々子は、東京でアパレル関連の企業に勤めていて、時々この町に帰省してくる。その度に、というか、とても気まぐれに連絡してきて、食事をして近況報告、という関係が続いている。私とはいわゆる、くされ縁、という仲だ。    彼女の話はなんというか、いつもキラキラと輝いている。多分それは、都会に出る勇気も能力もなかった私の気後れによるもので、世間の平均で言えば普通な話、なのだろうと思う。    でも、何となく、張り合ってしまう気持ちが出ていたのだろうか。菜々子には彼氏がいなくて、私には居た。だからつい、彼の話ばかりしてしまう。  彼の話ばかり。  いや、張り合うもなにもない。私には、話すことが、彼のことしかないのだ。  女子高で大した恋愛経験もないまま、地元のデパートに就職した。彼とはそこで、上司と部下として出会った。もう、付き合って五年になる。  菜々子は私とは別の共学校へ進学していて、先輩やクラスメイトと交際していたので、いろいろと話は聞いていたが、所詮相手は学生だ。私と彼との交際とは、レベルが違った。  プレゼントされるものも、連れて行ってもらえる場所も、かけられる言葉も。 「沙耶は、キレイになったと思う」  菜々子はニコニコして、いつも彼の話を聞いていた。 「キレイになったかどうかはわからないけど、自分にお金をかけるようにはなったかな」 「沙耶はデパコスだもんね。エステも行ってるんでしょ。私なんか家賃払ってカツカツだから、化粧品はいつもプチプラだよ」  そう、私は身体に磨きをかけなければいけなかった。目と鼻の整形もしている。だって、彼から捨てられたくなかったから。常に、勝たなくてはいけない、相手がいたから。  彼には、奥さんがいた。  私は、不倫していたのだ。 「別に、奥さんと別れて欲しい、とかはないんだ。略奪婚したい訳じゃないんだよね。沙耶が一番だから、って言われてる時点でもういいっていうか」  菜々子は最初からそれを知っていて、時折私が話す生々しい話も、普通の恋バナを聞くように相槌をうっていた。今日も彼の惚気に終始し、さすがに悪いと思った私は、少しは菜々子の話題もしようと水を向けた。 「でも、やっぱり都会のセンスってあるよ。菜々子の髪型も、こっちのヘアサロンとは出来が違うもん」 「ああ、これ」  菜々子が髪に手を当てた。 「実は親に聞いて、こっちで切ったんだ。美容師さんはもともと東京でやってた人なんだけど、こっちで店開いたんだって」 「へえ、そんなお店が出来てたんだ。全然知らなかった」 「一人でやってる、小さいお店だから。駅近でもないしね」  そう言って、菜々子はバッグを探った。 「あったあった。これ」  ショップカードを取り出して、こちらに差し出す。 「花の美容室?なんだか古めかしい名前だね」 「店主が花野さんて言うんだよ。店もむっちゃレトロな感じだから、合ってるっちゃ合ってるかな」 「美容師さん、女の人?」 「いや、男だけど、……そんなにチャラい感じの人じゃないよ。沙耶、昔からそういう男苦手だもんねぇ」 「もう、接客業して長いんだし、そんなのはもうないよ」 「すごく上手だから、気が向いたら行ってみれば?」  本当に気楽な感じで、菜々子は言った。  本当に、気楽な感じで。              
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