21人が本棚に入れています
本棚に追加
case2. 女ともだち
中学、いや、小学生以来の友だちである菜々子は、東京でアパレル関連の企業に勤めていて、時々この町に帰省してくる。その度に、というか、とても気まぐれに連絡してきて、食事をして近況報告、という関係が続いている。私とはいわゆる、くされ縁、という仲だ。
彼女の話はなんというか、いつもキラキラと輝いている。多分それは、都会に出る勇気も能力もなかった私の気後れによるもので、世間の平均で言えば普通な話、なのだろうと思う。
でも、何となく、張り合ってしまう気持ちが出ていたのだろうか。菜々子には彼氏がいなくて、私には居た。だからつい、彼の話ばかりしてしまう。
彼の話ばかり。
いや、張り合うもなにもない。私には、話すことが、彼のことしかないのだ。
女子高で大した恋愛経験もないまま、地元のデパートに就職した。彼とはそこで、上司と部下として出会った。もう、付き合って五年になる。
菜々子は私とは別の共学校へ進学していて、先輩やクラスメイトと交際していたので、いろいろと話は聞いていたが、所詮相手は学生だ。私と彼との交際とは、レベルが違った。
プレゼントされるものも、連れて行ってもらえる場所も、かけられる言葉も。
「沙耶は、キレイになったと思う」
菜々子はニコニコして、いつも彼の話を聞いていた。
「キレイになったかどうかはわからないけど、自分にお金をかけるようにはなったかな」
「沙耶はデパコスだもんね。エステも行ってるんでしょ。私なんか家賃払ってカツカツだから、化粧品はいつもプチプラだよ」
そう、私は身体に磨きをかけなければいけなかった。目と鼻の整形もしている。だって、彼から捨てられたくなかったから。常に、勝たなくてはいけない、相手がいたから。
彼には、奥さんがいた。
私は、不倫していたのだ。
「別に、奥さんと別れて欲しい、とかはないんだ。略奪婚したい訳じゃないんだよね。沙耶が一番だから、って言われてる時点でもういいっていうか」
菜々子は最初からそれを知っていて、時折私が話す生々しい話も、普通の恋バナを聞くように相槌をうっていた。今日も彼の惚気に終始し、さすがに悪いと思った私は、少しは菜々子の話題もしようと水を向けた。
「でも、やっぱり都会のセンスってあるよ。菜々子の髪型も、こっちのヘアサロンとは出来が違うもん」
「ああ、これ」
菜々子が髪に手を当てた。
「実は親に聞いて、こっちで切ったんだ。美容師さんはもともと東京でやってた人なんだけど、こっちで店開いたんだって」
「へえ、そんなお店が出来てたんだ。全然知らなかった」
「一人でやってる、小さいお店だから。駅近でもないしね」
そう言って、菜々子はバッグを探った。
「あったあった。これ」
ショップカードを取り出して、こちらに差し出す。
「花の美容室?なんだか古めかしい名前だね」
「店主が花野さんて言うんだよ。店もむっちゃレトロな感じだから、合ってるっちゃ合ってるかな」
「美容師さん、女の人?」
「いや、男だけど、……そんなにチャラい感じの人じゃないよ。沙耶、昔からそういう男苦手だもんねぇ」
「もう、接客業して長いんだし、そんなのはもうないよ」
「すごく上手だから、気が向いたら行ってみれば?」
本当に気楽な感じで、菜々子は言った。
本当に、気楽な感じで。
最初のコメントを投稿しよう!