case6-4. 下校の時刻

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case6-4. 下校の時刻

「私もそんなの、いつもの大口だと思ってたんです。でも、もう一人の友だちが、鳥居さんとトラブって、決まっていた推薦が取れなくなったって。それを聞いて、さすがにモヤモヤしてたところに、田中くんから朴葉さんの話を聞いて」 「すいません、縁切りの話、しちゃいました」  わかりやすく頭を搔く田中と、急に生き生きする小糸に、朴葉は内心で頭を抱える。 「だからさ……。僕に、そんな力はないって。占いで、明るい未来を示唆するだけだよ」 「それでも、構わないです」  由比が縋るような眼差しで朴葉を見てくる。 「鳥居さんは、親友といってもいいくらいの存在です。でも、推薦を取り消された子も、大事な友だちなんです。田中くんの話を聞いて、気持ちが揺れてしまって、自分がわからなくなってしまった。鳥居さんも、友だちなのに。高校時代の友だちって、もう二度と、作れないのに」  切っちゃえ、切っちゃえ、と小糸がけしかけているが、箱はないので由比に声は届かない。 「花の美容室の事もあるし、朴葉さん、何とかしてもらえませんかね。朴葉さんなら、煮るなり焼くなり、何とかしてくれるでしょ、こういうの」 「人を、万能鍋みたいに言うのやめてくれるかな」  そう言いつつも、頼られて悪い気はしない。朴葉の頬が緩むのを田中は見逃さなかった。 「オレの問題も解決してくれた人だし、まかせて大丈夫だよ。進むべき道を、示してくれますよね?朴葉師匠?」  こいつ、なかなかの策士だ、と朴葉は片目で田中を見やる。美容室が町の噂にさらされていると聞かせれば、朴葉はこの問題で動かざるを得ないし、相談に乗っている限り、田中は由比と親密になる機会を得られるという算段なのだろう。  しかし、確かに花野との事もあるし、鳥居鏡子がどういう人間なのか量る必要はある気がした。  花たちからの、結界の意味も。 「田中くんの問題、僕は解決してないよ。君自身でしょ、解決したのは」 「ほらね、こういう事言うんだよ、この人。信用出来るでしょ」 「そうだね」  微笑んだ由比を見て、まあ、田中が頑張るのも仕方がないか、と朴葉はため息をつく。 「まあ今回は、美容室について教えて貰った事もあるし、僕なりに何か助言が出来るか、考えてみるよ」  少し時間をくれ、と二人に言い残して、朴葉は先に喫茶店を出た。辺りはすっかり夜になっている。 『もうさ、全部ちょん切っちゃおう。ウソツキだし、やりたい放題だし、フツウに悪いヤツじゃん』    さっきから朴葉の頭の中で、小糸の集団が『ちょん切れ』の大合唱だ。   「うーん……。でも、由比さんも、鳥居さんを親友だって言う割には、悪く言い過ぎじゃない?何か、引っかかるんだよなぁ……まだ、わからないよ、この話」 『何がわからない?悪いのは、あの子』 「まだ、そう決まった訳じゃないよ。由比さんの言い分を聞いただけじゃ、鳥居さん側からどう見えてるのかわからないんだから」 『そんなのは考える必要がない』 「じゃあ、小糸ちゃんが鳥居さんを気に入らないからって、昔みたいに、直接君が髪をぶった斬るの?」   人が、死ぬかも知れないのに?  朴葉がそう口にしそうになった瞬間、身体が凍りつくような衝撃に包まれた。 「待て、待て!早まるな!!!」  ガクガクと揺れている膝に手をついて、朴葉は気力だけで言葉を捻り出す。 「まぁ、僕は、どっちでもいいけどね!どうするかは、小糸ちゃんの自由だから。でも、それじゃあ、君が悪いと思う鳥居さんと、やってる事同じでしょ。そうやって考えなしに行動してきた結果、君は、どうなった」  頭の中の、冷たい感触が少し緩んで、朴葉は深く息を吐いた。   「花野さんは、小糸ちゃんを信じると言った。だから、僕らも花野さんを信じようよ。今は僕らにとって厄災にしか見えないけど、花野さんが情けをかけた相手なんだ、鳥居さんは」          
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