prequel7. 変な人たち

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prequel7. 変な人たち

 朴葉にしてはまともなことを言う、と花野は少し感心する。 「僕は、あなたが詐欺師で、小糸ちゃんは受け子みたいなものなのかと思ったんです。だから、詐欺グループから足抜けさせようと思って、悪いヤツと手を切れ、って言いました。そしたら、私は悪いヤツだけど、切った糸を結び直したら、悪いヤツじゃなくなるのかな、って」  そして、小糸はいなくなったのだ。   「うーん、それで客足が戻ったという事は、小糸が縁の糸を結び直しに行った、という事なんですかね」  朴葉は興味深げに目を見張った。 「だいたいその手のモノは、善悪なんか気にしないでやり放題、なんですが、これも個体差ですかね……。かのモノの悪い評判っていうのは、人間側が理解できない事への不安で、後から尾ひれがついたものがほとんどなんじゃないかって僕は思ってますが、小糸は長い間、人から悪い悪いと言われ続けて、自分は悪いモノなんだと思い込んじゃったのかなぁ」  どんな方法で、小糸が一度切り落とした縁の糸を結び直しているのかはわからない。しかし、切った髪を一本ずつ結び直すような作業だとしたら、考えるだけで途方もない。 「あっ、花野さんはずいぶん小糸に同情的な感じですけど、あんまり入れ込んだらダメですよ。実際、今回みたいな被害が出るわけですし、何より、彼らには『引く力』があります」 「引く力?」 「向こう側へ、引っ張られちゃうんですよ。必要以上に敬ったり、無条件に望みを聞いたりしてると、彼らの力は増大します。そうすると、連れていかれちゃうんですよ、そっちの世界に。神隠しとか、そういうやつです。だから、人間側からしたら、悪いモノ、怖いモノ、という認識で正しいともいえる。先人の知恵はバカにできないです」 「そんなに怖い感じはしなかったけどなぁ……」 「そんなんで、よく取り込まれませんでしたね……」  朴葉が呆れたように息をつく。   「あっ、そうだ。この箱、お返ししますよ」  背伸びをして、花野が備え付けの棚から、朴葉が置いていった木箱を取る。半年放りっぱなしだったので、すこし埃が積もっていた。 「いえ、差し上げますよ。もし小糸が帰ってきても、それがないと、話が出来ないでしょ」 「帰ってくるんですか」 「わかりません。帰ってくるかもしれないし、来ないかも知れない。でも、花野さんすごく気に入られてたからなぁ……。糸を結び終わったら、意気揚々と帰ってきそうな気がするなぁ」 「うーん、でも、いつ帰ってくるかもわからないのに、こんな得体の知れないもの、置いていかれても困りますよ。捨てたらなんか、呪われそうだし」 「持って帰ったら、僕が呪われます」  朴葉が真剣に言うので、花野はぽかんとした。 「は?」 「もう、花野さんとお話出来なくしたな!とか逆恨みされるのが目に見えてます。だから小糸が嫌いなものを店に置いて、追っ払うのも無理です。僕が恨みを買います」 「まあ別に、追っ払わなくてもいいと思いますが……、こういう、捨てられない物がずっと残るのって、なんかイヤなんですよね」 「小糸の事は怖がらないのに、箱に呪われるのを怖がるとか、変な人だなぁ」 「誰よりも変な人に、変な人とか言われたくないですよ……」  はぁ、と深いため息をついて、二人はしばらく押し黙ってしまった。    
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