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case6-3. 下校の時刻
「つまり、町の人から、よく思われていない、って事?」
「うーん、微妙な感じっすね。面白く思わない人は、ある程度いると思いますけど、都会から来た人をすごく歓迎してる人もいますし。花野さんが若い男性だから余計に、お嬢様のお眼鏡にかなったやつがいる、って感じで、ウワサされてるんだと思います」
田中と由比の話を整理すると、どうやら急に地元の名士と繋がりを持ったよそ者の花野が、良くも悪くも注目されている、ということのようだ。
「そんなにすごいんだ、鳥居家って。確かに、見るからに立派な御屋敷だとは思ったけど」
「朴葉さん、御屋敷見た事あるんすか?」
意外そうに田中が聞いてきたので、怪しまれないように朴葉がそそくさと補足説明する。
「町歩き回ってたら嫌でも目に入るじゃん。花の話を聞いて、後からあの御屋敷が鳥居さんちだ、って知ったんだよ」
頭上の小糸がさらに呆れている様子が伝わってくるが、事の詳細を明かす訳にはいかないし、話を多少端折っているというだけで、全くの間違いとも言い難い。
「だいたい、なんで花野さんが花をもらう事になったんです?」
「え?もらったんじゃなくて、最初は、ランは育てるのが大変だから、得意な花野さんが預かるって話だったけど、結局、あのお人好しが全部、相場で買ったんだよ、あれ」
それは本当だった。花は絶滅危惧種がベースとはいえ、朴葉がネットで調べてみると栽培種の相場は低めで、全部まとめても大した金額にはならないようだった。それならと、花野が買い取ることにしたのだ。店の経費として落とせるかも、と、領収書までもらってある。後々面倒な事にならないため、ここでも花野得意の危機回避能力が遺憾無く発揮されていた。朴葉の言葉を聞いて、二人が眉を寄せる。
「また、そういう感じかぁ」
「私が聞いている話とずいぶん違います。まあ、いつもの事ですけど」
「えぇ?どういう話になってるの?」
「そうですね、……お気に入りのヘアサロンが出来たから、そこを盛り上げるために、貴重な形見の花を、プレゼントした、というような」
「それに尾ひれがついて、都会から来た髪結いが、お嬢様をたぶらかして巻き上げたんだ、みたいに言ってたのも聞いたっす。そういうのはかなり妬みが入ってると思うし、花野さんはオレも知ってるから、そんな人じゃないよってその場で否定しておきましたけど」
「そのくらい、この町では鳥居家の後ろ楯を得るって、大きい事なんです」
そこで、由比は唇を横に結んだ。
「ただ、この話は、それだけじゃなくて。オレは直接鳥居さんを知らないんですけど、由比さんみたいに身近な人から話を聞くと、どうも、鳥居さん自身が、こう言ったらなんですけど、問題ある人なのかなー、って」
「由比さんは」
朴葉が由比をじっと見る。
「この件以外にも、何か思うところがあるの?鳥居さんに対して」
朴葉の問いに、しばらく逡巡していた由比だったが、やがて、意を決したように口を開いた。
「あまり、学校内で良いウワサは聞かないです。学校と繋がっていて、教師も逆らえないとか。例えば、彼女に気に入られてないと、絶対指定校推薦は取れない、って」
「えっ、いくら鳥居家でも、それは流石にないでしょ、相手がある事なんだし」
田中が軽い感じで打ち消そうとすると、由比真琴は頭を振って俯いた。
「でもそれが、本当にあったんです」
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