case6-10. 下校の時刻

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case6-10. 下校の時刻

「あなたが圧力をかけて、仲違いしたカシムラさんに来ていた推薦入学の話を潰した、というのは本当ですか」  回りくどい事をしてもしかたがない、というより、特に有効な策を思いつかなかった朴葉は、真正面から切り込んだ。   「ああ、その話……。カシム、カシムラさんは専門学校へ行くことにしたので、推薦を断ったと聞いています」 「そうなんですか?その割には、カシムラさんがあなたに圧力を掛けられた、と訴えているようですが」  それを聞いて鏡子は困ったように眉を寄せた。 「誰があなたに相談しているのか、わかりました。ええ、そうです。カシムの態度が気に入らなかったので、家の力を使って、学校に圧力をかけました」 「と、いうウソを、カシムラさんと示し合わせて、由比さんについている」 「……カシムに、聞いたんですか?」  ふいに厳しい表情に変わった鏡子が身構える。 「いいえ。カシムラさんには、会ったこともないです」 「じゃあ、どうして……。それを、真琴ちゃんに言うつもりなんですか?」 「そんな無粋なこと、しませんよ。由比さんの事を思って、そんなウソをついているんでしょう?」 「……あなた、いったい何者なんですか?」  椅子から立ち上がって、鏡子は朴葉を見据えた。 「何者って……。しがない占い師ですよ」 「カシムに聞いたんじゃないのに、それをどうやって知ったんです。それに、そこまでわかってるなら、なぜ、……これ以上、何を聞く事があるんですか?私たちを、放っておいて下さい」 「ところで、僕を排除しようとするのはなぜです?」  唐突に投げ込まれた朴葉の問いに、鏡子が苛立つ。 「はぁ?意味がわかりません」 「僕は名探偵じゃないから、事の真相はわかりません。でもあなたが、自分が悪者になってでも由比さんの幸せを願っている事を知った。そんな人が、なぜ僕を排除しようとしているのか知りたいんです。僕はあなたにとって、悪いヤツなんですか?」 「排除しようとしてる、というのがよくわかりませんが」  鏡子は朴葉を睨みつけた。 「はっきり言って、消えて欲しい、とは思っています」  やっぱりな。  ふぅ、と肩を落とした朴葉に、今度は明後日の方向から鏡子のパンチが飛んで来た。 「花の美容室に、今度新聞の取材が入ります」 「へっ?」 「地方紙ですけど、町役場からの依頼なので、花野さんは断れないと思います。花野さんは、都会からこの町へ来てくれた、貴重な人材なんです。新聞に出れば、もっとお客さんもいっぱい来るでしょう。その時、怪しい占い処とか、縁切りの話とか、あったら邪魔ですよね?それに、カットが縁切りになるなんて、縁起が悪いったら」  それ、最初の頃花野さんも言ってたなぁ。  思い出して、朴葉は場違いにも懐かしくなる。 「だいたい、あの店は花野さんが町から借りてるもので、あなたは勝手に住み着いてるだけなんじゃないですか」 「一応従業員扱いで、光熱費は払ってますけどね」  売り言葉に買い言葉で言い返したが、朴葉はだんだんどうでも良くなっていた。  そうだ。元々、聞かなくても、わかる事だったんだ。 「うん、よくわかりました。あなたにとって花野さんが大事な人だ、って事が。だからそんなに、頑張っているんですよね」                
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