case6-12. 下校の時刻

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case6-12. 下校の時刻

「栽培した花を、無闇に自然に返しちゃダメなの!だから、そういうとこ!善意からでも、自分だけで考えて、これが正しい!って走りすぎなんだよ。誰かに相談するとか、本で調べるとかさぁ。ぶっ飛ばす前に、なんか、あるでしょ。由比さんの事もそう。由比さんが推薦をとることが、由比さんにとって一番いい事、ってあなたが決めちゃった。あなたは圧力なんかかけてないよね?由比さんの事情を話して、カシムラさんに推薦を譲ってほしい、って頼んだだけだ。でも、それを聞いたカシムラさんが、あっさり譲ってくれた。この、あっさり具合は加護の力だと思うよ?由比さんちが貧乏でかわいそうだから、ずっと全てが学校内で一番だったのに陥落してかわいそうだから、っていう理由で、人生に関わる大事な物を譲ってくれる事情が、何かわからないけどカシムラさんの側にも都合よくあったんだよ。それでなきゃ、普通すごい推薦枠なんか譲らないでしょ」 「……確かに、……カシムは、どうして承知してくれたんだろう。カシムが承知してくれなきゃ、成り立たない話でした。最初に言い出したのは私ですけど、どちらかというと、カシムの方が積極的だったんです。どうしても譲りたいけど、真琴ちゃんが承知しないんじゃないか、プライドを傷つけたくないから、どうしたらいいか、って話しているうちに、そういえば鳥居、前に、言うこと聞かないと、推薦とれないって言ってたよねって。それも、うちの学校、成績さえ良ければ何しても良いみたいな、少し治安が悪かった時期があって、それを収めるのにいいと思って、言ってたん……ですが」  説明している鏡子の声が、だんだん小さくなる。   「何だか、いっぱい暴走前科がありそうだなぁ」  そう言いながら、朴葉はますます鳥居鏡子に同情していた。彼女は常に、良かれと思って行動している。けれど、正義の成就によって自身は、惨憺たる状態に追いやられている。    花をタダであげた、というウソも、心情はわからないでもない。鳥居翁が大事に育てていたものが二束三文なのは許せなかった、というところだろう。しかし鳥居翁のプライドを守るという『正義』でウソをついた結果、由比との関係は崩壊している。    そして、先導したカシムラの思惑。鳥居に悪者のフリをさせる体で、実は、本心から悪口を言っていたとしたら―― 「いずれにせよ、あなたの無理やりな正義は、加護によって成就しちゃうわけよ。花の件だって、経緯はどうあれ、花野さんの手に渡って全滅は免れた。推薦を手にした由比さんも、このまま進学するでしょう。つまり、その理論で言ったら僕は(僕らは)追放確定、ですよね」  
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