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case1. 夢を断つ
「本人が切って欲しいんだから、スパッとちょん切ればいいよ」
「また、小糸ちゃんは。そう、単純じゃないんだよ、人間てものは」
「ニンゲン、めんどくさいなー」
今日舞い込んだ案件について、三人は会議を開いていた。三人、というのは語弊がある。参加しているうちの一人は、人間ではなかったからだ。
人ならざるものである彼女は、小糸と名乗った。妖怪なのか八百万の神なのかわからないが、どうやら江戸時代あたりから伝わる、『髪切り』と呼ばれる妖怪がベースになっていると思われる。昔は突然人の髪を切って驚かせていたようだが、最近は騒ぎを起こすのはスマートではないと思っているらしく、理髪店に目をつけたのはいいが、小糸が居着いた店は客が来なくなって、すぐに潰れてしまう。この店もかつて、小糸のせいで閑古鳥が鳴いていたものだ。
もう一人はこの店の店主である花野公平、二十八歳。なかなか腕の良い美容師だ。都会のヘアサロンで美容師をしていたが、Iターン支援が受けられる事を知り、一念発起してツテもないこの田舎町で店を開いた。なぜか小糸にとても気に入られている。
最後の一人は朴葉と名乗る青年だった。本名ではないようで、この世ならざるモノから身を守るために自分で付けたらしい。確かに朴の葉というのは殺菌作用があると言われ、古くから食品を包んだり器にしたりされているようだが、この名前に彼が期待するような効果があるかは不明だった。
朴葉がそんな事をしていた理由は、彼に、普通の人には見えないモノが見えたからだ。しかし、見えるだけで戦闘能力はゼロである、というのが本人の申告だった。
骨董品屋で買ったらしい変な道具を色々と持っており、そのうちの一つが、小糸と話が出来る木箱だった。特に霊感のない花野は、これを使って小糸とコミュニケーションを取っている。
普段は普通のヘアサロンなのだが、どこかから聞きつけて、今日の様な客が、この店にやって来るのだ。
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