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ママとご対面②
「高温でもとけることができないなら、わざわざ冷蔵庫に入らなくてもよかったじゃない」
「いや、でも、夏の終わりとはいえ、まだ暑いですからねぇ。どうせ過ごすなら冷蔵庫の方がいいかなぁ、って」
「そうよねぇ。まだ、暑いわよねぇ。私もバターだったら冷蔵庫に入り込んじゃうと思うわ」
ママがテーブルに置いたペットボトルの麦茶を一口飲んだ。
「あと、バターとしての本能が冷蔵庫を求めていた、っていうのもあるかもしれません。無性に冷蔵庫へと入らずにはいられませんでした」
「そうなのねぇ。人間もバターも本能には、なかなか抗えないわねぇ。あっ!……あら、ごめんなさいね。あなたが、これから話そうとしてたのに。私ったら、おしゃべりな人だから」
「あ、いえ、大丈夫です」
「はい、じゃあ今から黙ってるから、どうやって生まれて、何があって、なぜこの家の冷蔵庫に入るに至ったのかを教えて」
僕が、どうやって生まれて、何があって、なぜこの家の冷蔵庫に入るに至ったのか?
それは、つまり、こういうことなんだ。
僕は工場で普通のバターとして生まれるはずだった。だけど、製造中に機械のトラブルがあってね。僕の中に謎の小さな部品がポロッと落ちてきて混入したんだ。その途端に、こんな変なバターになったってわけ。
その部品は四角い金属片のような見た目で、バター色に美しく輝いていたなぁ。
それから体全体に何かを巻かれて、箱に入れられ、車に乗せられて、この街のコンビニに到着したのさ。
ひとまず、そこまでママに話した。
「なるほどねぇ」
「で、僕はものをすり抜けて、宙に浮いて移動することができるのですが…」
そこでママが「あら、凄い。だから冷蔵庫に入れたのね」と口を挟む。
「…あるアクシデントがコンビニで起きたために自分の変わった体質に気づくことになって、包装紙と箱を通過してから、逃げ出してプカプカと漂いながら何となくこの家に来て、冷蔵庫に入り込んだんです」
「あら、何となく入られちゃったわけね。で、そのコンビニで起きたアクシデントって何かしら。んもう! 肝心なところ焦らさないでよ」
「長時間の停電が起きてしまいまして」
「あら!」
「停電中に徐々に柔らかくなる周囲のバターと自分を比較していたら、ふと、自分がとけない事実に気づきました。そこでショックを受けて、とける方法を探す旅に出たんです」
「そういう流れでさまよっているわけね。……でも、とけるイコールこの世から消える、なんじゃないの?」
「その通りです」
「あなたは自分の存在を消す方法を探して、さまよっているわけ?」
「はい。バターは最終的にとけたいと願う本能がありますから、仕方がありません」
「そう。理解しがたいけど、大変ねぇ」
そこに、「ママ、誰と喋ってるんだい?」と少年が入ってきた。
「愛しの一人息子だわ」
再びママがウインクする。
二度目のウインクに困惑する僕に優しい声をかけるかのように、背後にある冷蔵庫が「ブゥーン」と唸る。
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