翔くんとパパ登場

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翔くんとパパ登場

 少年の名前は翔といった。翔くんは小学校低学年らしいけど、やけに大人びている。 「ふむ。バター君。とけるとけないは、ひとまず置いてだね、住まいがないと何かと不安だろう。よし! 今日から君を、うちの一員にしてやろう」  僕とママから先程までの会話内容を聞き終えた翔くんが言った。 「ちょっと、翔ったら、何で勝手に決めてるのよ」 「だって、人でもバターでも困っていたら助けてやるのが情けってものだろ? ママ、違うかい?」  とまあ、こんな具合で翔くんはおじさんみたいなキャラで、僕は即座に翔くんを気に入ったのだった。 「もう、翔ったら、正論を振りかざすなんて卑怯ね……。私はいいんだけど、パパの意見も聞いてみないと……家族全員の同意が必要だと思うわ」 「すみませんねぇ、何か気を遣ってもらっちゃって」  世の中捨てたもんじゃないなって思いながら、僕は言った。  すると、「さーて、今からスペシャルモーニングを作るぞぅ!」と今度は大きなおじさんが入ってきた。 「あら、私の可愛いウサギちゃん!」 「やめろよぉ、ウサギちゃんって言うなよぉ」  どうやら、パパのようだ。  パパは「あっ、どうしてテーブルの上にバターが載ってるんだい?」と、すぐに僕を発見して目を見開く。 「すみません、お邪魔しています」  僕は恐縮する。 「おっと、昨日飲みすぎたかな。聞こえちゃいけない声が聞こえてきたぞ」 「パパ、聞こえていい声だよ」翔くんが、すかさず言う。 「ええ? いや、だって声が、バターが、俺の耳からバターが」と混乱ぎみのパパに、ママがもう一度先程までの話の流れを説明する。 「なるほどねぇ」とパパは腕組して少し考えた後に「いいんじゃないか」と頷いた。  その瞬間、僕は家族の一員となった。   「ありがとうございます! すみませんが、とける方法が見つかるまで厄介になります」 「見つかるまでなんて言わずに、ずっといればいいじゃないの」パパが微笑む。 「そうよ。ウェルカム!」とママが嬉しそうな顔をする。 「本当に、ありがとうございます!」僕は、ママとパパと翔くんに心から感謝した。  でも、「しかし、知的かつバターなのにとけないっていうのは少し妙だね」という翔くんがボソッと言った言葉が、僕を不安にさせた。  ママの飲みかけのペットボトルが水滴でびっしょりになっていて、僕の代わりに冷や汗をかいているように思えた。  
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