トラブル

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トラブル

 しばらく経っても、とける方法の手がかりは見つからないままだったけど、冷蔵庫の僅かなスペースを『バター部屋』として拝借しながら、たまに冷蔵庫から出てリビングで談笑したり、テレビを観たり、家族みんなと一緒に楽しい日々を過ごしていた。  ところが、ある日事件が起きた。  日曜日の昼下がり、セミたちの鳴き声が少なくなり、久々に最高気温が30度を下回って、いかにも夏の終わりといった日だったのを覚えている。  そのとき、パパとママは買い物に出かけていたんだ。 「おい、バター君よ」翔くんがカップアイスを食べながら言った。 「ん? どうかした?」 「正直言って、君は気味が悪いんだよ」  一瞬時が止まった、気がしたがエアコンの室外機の音が微かに聞こえたので実際には止まっていなかったようだ。 「気味が悪いだって?」 「ああ、そうさ」翔くんが意地悪な笑みを浮かべる。 「一体、どこが?」 「喋るし、とけないところだよ。実に気味が悪いね」 「翔くんは僕のことが好きじゃないのかい?」  答えはわかっていたが、つい訊いてしまった。    「うちに来た当初は好きだった。とけない喋るバターだなんてイカしてるじゃねえかって思ってたさ。しかしだねぇ、時は人を変えてしまうのだよ」 「はっきり言ってくれ。僕を嫌いだと」  すると「君が嫌いだ」翔くんが嘲るように言った。 「翔くんのバカ!」僕は、この家を出ることにした。  
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