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さまようバター
楽しいこともいっぱいあったけど、最後にケンカをして別れることになってしまった翔くんを思い出しながら、僕はプカプカ浮いて街をさまよった。
多様性を受け入れる時代になりつつあるといっても、所詮は口だけだ。
いいじゃないか!
喋るバター、喋らないバター、とけるバター、とけないバター、とけそうでとけないバター、とけなさそうでとけるバター、いろいろなバターがあったっていいじゃないか! と怒りが込み上げる。
とはいうものの、正直な気持ちを言うと、僕も他のバターと同じがよかった。とけることができたらなぁ。普通だったら、こんなに悩むこともなかったのに。
何時間も、あっちに行ったり、こっちに行ったりしていたら、急に翔くんの家が恋しくなった。
ああ、僕は怒りんぼうで寂しがりやなんだなって気づく。いっときの感情に流されて家を出てしまったけど、とても寂しい。
パパとママと翔くんに会いたい。でも、道に迷ってしまったから会いたくても会えない。ここは、どこだろう?
涼しい風が吹いた。
もう夏が終わるんだなぁ。やがて、この風はもっと涼しくなり、その後は徐々に冷たくなり、僕は孤独にそれらの風を受け止めるしかないんだなぁと考える。
そして、どうして普通のバターに生まれなかったのかと自分の運命を恨んだ。
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