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 とうとう僕はプカプカ浮くのをやめて、住宅街にある道路の隅っこに着陸した。  人々が過ぎ去るのを観察して、じっとする。  誰も僕に気づかないまま、急いで歩いたり、ゆっくり歩いたりしている。たまに自転車や車が通りすぎたりもして、その人たちが通過するたびに寂しさは増していった。  どのくらい経っただろうか。しばらくすると遠くの方から「バターくーん、バターくーん」「あなたは何も悪くないんだから帰っておいでー」と2人が叫ぶ声が聞こえてきた。  パパとママの声だとわかり、ホッとする。  でも、パパとママの声はどんどん遠くに遠ざかって、やがて消えていった。 ああ、やっぱり世の中そんなにうまくいかないやって落ち込む。  もう一度、パパに会いたい、ママに会いたい、翔くんに会いたい。  もし、また翔くんに会えるのなら許してあげよう。何もかも許してあげよう。翔くんが、本当は優しいこと……僕は知っているから。  意地悪な気持ちになったり、意地悪なことを言いたくなるのは人間なら誰でもあるのかもしれないなぁ。きっと、優しい翔くんも、意地悪な翔くんも、どっちの翔くんも僕は大好きなんだ。両方いなければ、翔くんじゃないんだから。  ぼんやりと、そんなことを考えていたら「バター君! バター君よ! この声が聞こえたら、早急に返事をしたまえ!」と翔くんが僕を呼ぶ声がした。 「翔くーん! 翔くーん! こっちにいるよー!」と、できる限り声を張り上げる。  翔くんの声が、どんどん近づいてきたから、僕は声のする方へプカプカと大急ぎで向かった。 「翔くーん! 翔くーん! こっちにいるよー!」 「バター君の声が聞こえる! これは、もうじき会えそうだぞ!」  僕は限界までスピードを上げる。そして、ようやく翔くんの姿が見えた。 「やっと見つけた!」 「これはこれは、ご無沙汰だね。嬉しいよ!」  僕たちは再会することができた。        
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