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ついに
「ほら、ここに来たまえ」と翔くんが差し出した両手の上に僕は載った。
「ごめんね。とてもお世話になったのに、何も言わずに家を出てしまって」
「詫びるのは、こちらのほうだよ。すまなかったね。ひどいこと言ってしまって。勉強のストレスでイライラしていたものだから、つい。どうだろう? ここは一つ、水に流してくれないだろうか。またバターくんとは仲良くやっていきたいんだ」
「うん、いいよ。もう過ぎたことだ。大切なのは今だから。今、僕と翔くんはお互いに仲良くなろうと思っている。だから今から、もう一度仲良しになろう」
そう僕が言うと「嬉しいよ。バター君の器の大きさは尊敬に値するよ」と翔くんは泣いた。
そこにパパとママがやってきた。
「あら、感動の再会ね」とママが泣く。
「ハッピーな光景だね」とパパも泣く。
翔くんの涙がポタポタと僕に落ちる。何滴も何滴も温かい涙を浴びて、僕の心が温まる。
すると、ジワーッと体じゅうも温かくなった。
「バター君よ、とけてるじゃないか!」
翔くんの声が聞こえた。視界がぼやけて、ゆっくりと暗くなる。翔くん、パパ、ママが大声で何か言っているけど内容がわからない。
意識が遠のいて、生まれてからさっきまでの記憶が次々に浮かび上がった。
僕は、とけないバターに生まれて幸せだった。最期にそう思えて本当に良かった。間もなく、この世界から消えていくのだろう。
さようなら。大好きな翔くん、パパ、ママ。
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