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「そういやお前が家庭教師してた高校生はどうなった?」 「えっ……」 部屋で買ってきたものを食べ終わったところで芦屋がそう言った。 「受験。もう終わったんだよな?」 「あ、ああ……合格したよ」 「へぇ。良かったな」 芦屋はにっこり笑う。最近、芦屋の仕事が順調で、少し久しぶりに会うから、若干戸惑う。俺は曖昧に頷き返した。 芦屋には、翔弥のことは言ってなかった。 まあ、直接関係ないし、仕事だし、俺がクライアントに手を出さないのは知ってるから、芦屋も気にしていなかったのだろう。 ふと思い出して聞いてきたようだ。 「てことは、終わったのか?その仕事」 「……いや、まだ……その高校生、いや大学生か。……のカウンセリングは続いてるから、まだ、行かなきゃいけねーんだわ」 「ふーん。そうなんだ」 「……………嫌か?」 つい、俺がそう問いかけると、「は?」と返された。 「なに言ってんだ?仕事だろ?俺がとやかく言うことじゃねーし」 「………まあ、そうだな」 「なに?もしかして、その高校……いや、大学生を狙ってるとか?」 「ーー!?いや、まさか、」 ーーやべぇ、動揺しすぎだろ、俺。 芦屋に聞かれても動じない脳内シミュレーションは何度もしたはずだ。 焦る俺に、芦屋は「冗談だよ」と笑い飛ばした。ーー機嫌、いいな。たしか、新しくレギュラーを取った役が当たり役で人気が上がって、雑誌インタビューとかよく受けるようになったらしい。 ………と、いうのを俺は芦屋より先に百瀬から聞いていた。 「お前さ、良かったな。人気出てきたみたいで」 「な?サンキュー。なんの役が当たるかわかんねー世界だな。俺が出てるアニメの原作も売れ行きよくて、ラッキーだった」 「……ふーん?」 子供のようにはしゃぐ芦屋。……嬉しそうな姿を見てると、俺も嬉しい。……はず。 「…………」 「?麗?」 「あ……いや、ごめん、なんでもない」 「そう、か?」 「うん。お前が楽しそうで……羨ましい。ほら、人気出たらモテるんじゃないか、各方面?」 「ははっ」 芦屋は笑った。笑って、俺に話しかける。 「お前以外にモテてもなぁ」 「………揺れねーの?かわいい女子とか、かっこいい男に誘われたら」 「なんで揺れんの?俺はずっとお前一筋だよ。お前が恋人になってくれたから、俺、今まで以上に頑張れてんだよ」 「………!」 芦屋は疑いのない瞳を向ける。 久しぶりに会えた恋人を愛でるように。 「……恥ずかしい奴」 「はは、だな」 「……俺、みたいなのが恋人じゃ……ファンに怒られそう」 「はあ?関係ないだろ。ファンはファン。声優、芦屋の、な」 「…………」 「でもさ、ただの男である芦屋龍樹の恋人はさ」 芦屋は言いながら近づいてくる。 すぐに触れられる距離まで。 「麗。お前は、俺のものだよな?……俺、信じてるから」 ぽん、と手のひらで頭を撫でられる。 ……あたたかい。 あたたかすぎる。 こんな俺に、そんな満面の笑みして。 「……芦屋」 「うん?」 「…………えっ、と」 「うん」 言葉を、出すか迷う俺に、芦屋は期待を込めて見つめてくる。 「俺…………お前が好きだ」 口にしてしまえば、それは。 想像していたよりも幸せすぎる言葉だった。 「麗」 「………っ恥ず……」 「なんでだよ、俺も好き」 「………」 「俺も、麗が好き」 俺の告白に、芦屋は心底嬉しそうな顔をする。頭にあった手は頬にいき、そっと唇を重ねられる。 「ずっと、麗からそれが聞きたかった」 「!」 芦屋は俺を抱きしめながら嬉しそうにそう言った。 芦屋龍樹との甘い時間は、俺の全ての穢れを浄化させる。 『これでいいのか』という苦悩と、『このままがいい』という最上級の我が儘で埋め尽くされている。 俺はお前に、愛されるような資格があるか? この先もお前を騙し続けていけるだろうか? ーー芦屋に抱きしめられながら俺は。 その腕の中で、常に別の男たちのことを考えている。 そして心が、今にも……
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