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「新見先生」
「あ、お、おはようございます。社長……」
翔弥の部屋に行こうとしたところを、神ノ木に見つかり呼び止められた。
決してこそこそしたわけではない。百瀬に確認して神ノ木の部屋をノックしたがいなかったので、翔弥の部屋に行こうとしたわけで。
神ノ木はいつもと変わらない顔をしている。
先週、俺は多良川に相談し、結論として神ノ木社長との関係を終了、翔弥の家庭教師は続行という形で落ち着いたと、通話が終わった多良川から聞いた。
だがしかし、神ノ木からしたら寝耳に水の話だろうし、理由も話していないので怒っているかもしれない……と思ったが、実際目の前にいる社長は普通だった。
「お邪魔しています。今日もよろしくお願い致します」
「うん、よろしく」
「あの、それで……先週、多良川教授がお電話した件ですが」
「ああ……」
それなら、と神ノ木は俺の腕を引っ張って足を進めた。
「え?あの、社長」
「部屋の外じゃできない話ですね。ひとまず俺の部屋に」
「………っ」
そう言われて俺は、当然反論できるはずもなく、神ノ木の部屋までついていくしかなかった。
*****
「あの、社長。申し訳ありませんでした……。相談もなく、しかも多良川教授からご連絡をしてもらって」
「構わないよ。新見先生のことはもともと多良川からもらった話だし。やっぱり新見先生には特別な人がいたんだ」
座って、という神ノ木に従い、ソファーに腰かける。当然のように神ノ木は俺の隣に座った。
「……すみません。あの、それで契約金のことですが……内容が変わったのでこちらも見直してください」
「あー。……そうか、翔弥の家庭教師とカウンセリング代に直さなくちゃいけないのか」
「はい。今月から直してもらって構いませんので。申し訳ありませんでした」
頭を下げて謝ると、神ノ木は俺の頭をポンポン撫でながら、ふふ、と笑った。
「真面目ですね。新見先生」
「いやぁ……どうですかね?」
「えぇ?ーーまあ、そうか。真面目だったらいくら仕事でも俺と寝たりしないですね」
「!……社長?」
神ノ木の話し声のトーンがひとつ落ちた。俺がパッと横を向いた瞬間、神ノ木の顔が近づいてくる。
「!社長!」
「ーーねぇ。多良川とも確認した契約書は直すから……今度は先生個人で、俺と契約しませんか?」
「………え?」
「俺と先生で、SEX契約しましょう。お金は払います。今までと同じ……いや、更に上乗せしてもいい。希望額があれば聞きますよ」
神ノ木は、そんなことを言いながら俺の唇に指をあてる。
ーーなんだって?
俺個人と契約?つまり、金を払って俺を買うってことか?……いやいや、なんで神ノ木グループのトップが、ただの息子の家庭教師にそこまで入れ込む必要がある?
「……ご、ご希望は………わかりましたが、何故俺と?あなたなら、引く手あまたでしょう。翔弥さんにもバレるかもしれないリスクを背負ってるんですから……ひとまずやめた方が」
「ふふ、ひとまず、ね」
神ノ木の指が段々いやらしくなる。少し開いた口から、キレイな指先が入ってくる。
「………ぁ、ふ、ぁ」
「ダメですよ、先生。ちゃんとした恋人と一緒になるつもりなら、こんな俺のこと、もっとバッサリ切り捨てないと。勘違いします」
「………そ、それ、ぁ」
ピチャッと唾液が神ノ木の指を纏わりつく。
ーーヤバい。コイツの愛撫は気持ちいい。
口に入れた指だけでなく、もう片方の手を腰に回し舐めるように触られる。
「…………しゃ、ちょ」
「ちゃんと秘密にしますから。ね?翔弥の受験が終わるまでという契約でーーどうです?」
「………っ」
「負担はかけません。回数も月に数回でーー新見先生がタイプなんです」
神ノ木はそんなことを言いながら指を離すと俺にちゅ、とキスをしてくる。
「新見先生」
ーーヤバい。
「……いいですか?」
ーーヤバい。
「いい、みたいですね?否定しないなら」
「………!」
ーーだからヤバいって!!
なにも答えない俺に、神ノ木は微笑んだ。
「残り半年ほど、よろしくお願いします。新見先生」
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