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3
翔弥の学力は俺の家庭教師としての努力の成果もあり、なんとか徐々に上がっていった。
成績に、俺も翔弥もひとまず安堵することができるようになってきたのは、神ノ木との契約変更から2ヶ月が過ぎた頃だ。
そして俺は、その頃から芦屋龍樹と正式に付き合い始めた。それから今でもポツポツ繋がっていた他の男たちとは完全に切った。
ただひとつ、契約中の神ノ木を除いて。
「ん、ぁ、」
「新見、イきそ?」
「んん………っ」
芦屋の動きに合わせて、快楽が跳ね上がる。
熱を吐き出し、ベッドにうつ伏せに寝転がると背中にキスされた。
付き合い始めてから芦屋とは、ほぼ毎日会った。もともと週に数回はどちらかの家に行っていたが、更にその回数が増えた。
段々半同棲みたいなものになっていく生活が、そんなに悪くはないと思ってしまっているくらいには、俺は芦屋が好きみたいだ。
神ノ木社長には、月に1、2回ほど呼び出された。誘いは大体急なので、俺は月に数回、芦屋に嘘の連絡をする。
『家庭教師のあとに別の仕事が入ったから今日は会えない』
芦屋からの返事はいつも決まってこうだ。
『わかった。じゃあ、また明日』
嘘をひとつずつ重ねていく。
自分を好きだと言ってくれる相手に。
正直、罪悪感は、ハンパなかった。
ーーでも、この『契約』もあと数ヶ月。
翔弥の受験さえ終われば、契約終了だ。
それまで俺はなんとしても、芦屋を騙し続けなければいけない……のだけど。
今日も、そんな芦屋と身体を重ねた。
終わったあと、ちらっと横を向くとそれに気づいた芦屋がこちらを見る。
「どうした?」
「あ………いや、お前さ、」
「ん?」
「いや……えっと、なんか抱き方変わった?」
ゴムの処理をしながら芦屋はそう聞く俺に少し嬉しそうに微笑む。
「そりゃよ~~やくお前が俺のものになったわけだし?恋人抱きしたかったわけよ」
「は?なんだそれ……恋人抱きって、」
「いやだから……なんつーの?めちゃめちゃ優しくしたくて。愛のある感じ?」
「…………」
……マジか。
愛って。嘘だろ。
でも、芦屋の顔を見ていたら、なにも言えなくなった。
確かに手つきも言葉も愛撫も、これまで以上に甘い。
芦屋、お前はずっと、そういうのが欲しかったのか?
「あ、引いただろ、今」
「え?いや…………うん」
「おい」
「だって、10年ヤッてきてんのに、なんかおかしくて」
「セフレと恋人は扱い違うよ?俺は」
耳元で透き通る低音で囁かれ、ゾクッとした。
そういえばこいつ、声優だったわ。
「………そうか」
「なあ、新見さ」
「うん?」
「俺はさ、お前のこと好きだから惚れた弱みになるんだけど」
俺の髪を触りながら芦屋が真剣なトーンで話し出す。
「芦屋?」
「………もし今でもお前が、他の男と繋がってたり、俺以外と寝たくなったりしたら……前みたいに馬鹿正直に話すなよ」
「………!」
「多少の浮気は目をつむる。約束だからな。でも、それなら絶対俺にバレないようにしてほしい」
ズキッ。
お願い、という芦屋の言葉は俺の心臓を貫くように刺した。すぐに答えられない俺を見て、芦屋はもう一度、「お願い」と言った。
ーーバカ。俺相手になんでそんな必死になってんだよ。
多分、芦屋は気づいてる。
気づいた上で騙されてるふりをしてくれている。そんなこと、こんだけ近くにいるんだからバカでもわかる。
「なあ、……麗。好きだ」
「…………」
ぎゅっと背中から抱きしめられる腕に手をやり、俺は数秒目をつむって考えたあと、ゆっくり口を開いた。
「大丈夫。お前以外とはもう、寝てないから」
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