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『今日と明日、仕事が入って夜会えない。また時間できたら連絡する』 芦屋にそうメッセージを入れるとすぐに返事が来た。 『わかった。無理するなよ。俺も土日は忙しい。新しいレギュラー仕事が入ったから。また会えるのを楽しみにしてる』 ***** 不快さと抵抗感がないと言えば嘘になる。 でも、今更、という気もした。 「すご………、さすが芦屋さんや、社長を咥え込んでるだけありますね」 「……っっ、て、いうか、お前………っ、社長には抱かれてたんじゃ、ねーのかっ……」 「そうですよ。でもどっちもできます。 …というか、そんな喋る余裕がまだあるんですね?」 「………あ!あっーー」 ラブホテルの薄暗い部屋で。 ズッと百瀬は俺のナカを押し上げてくる。 ーーヤバい、芦屋や神ノ木とは違う。 百瀬は、大事な仕事相手である翔弥の受験が数日後に迫っているにも関わらず、夜に俺を呼び出した。 部屋に入ってすぐ乱暴に俺を抱き始めるとすぐに一度イッて、呼吸を整える。しかし、ソレを抜かないまま。 「……っ、溜まってたならそう、言えよ」 「あなたみたいに毎晩してませんから」 「は?人をケダモノみたいに言うなっ」 「事実でしょう?まだ終わりませんよ?」 「……っ、わかってるつの。変えろよ、ゴム……」 俺がそう言うと百瀬は「わかりました」と言い身体を離した。 俺は、その様子を仰向けになりながら見ていた。 「……おい」 「はい?」 「翔弥に、尽くして……ケアするのが、お前の仕事じゃないのかよ?こんなときに仕事場抜け出して……今頃お坊ちゃんが泣いて探してるかもよ?お前のこと」 「はは。そうかもしれませんね。スマホもオフにしてますし」 「…………悪趣味だな」 「あなたに言われたくありません。それに、」 「……?」 「それに、父親とあなたの情事を見たくらいで受験に落ちるなら、あの子はきっとこの先、何者にもなれません。社長はもはや諦めている節がありますが、私は、翔弥さまには神ノ木グループを継いでほしいと思っているので」 ーー翔弥に、神ノ木グループを? 百瀬のセリフは冗談には聞こえなかった。 あの翔弥を人前に立たせるのは、なかなか骨が折れる仕事だぞ。 俺は、半年以上翔弥を見てきて、カウンセラー(プロ)としてあいつの精神状態を理解してる。 「はっ、獅子の子落としか」 「いけませんか?あの子のご両親にはその点期待できませんので、私だけでも望みを与えてやらないと」 「………」 言われてみれば、翔弥は高校に行けないくせに大学には入りたがっている。 そのためにここまでめげずに勉強してきたわけだし、本心では『神ノ木グループの息子』である自分をちゃんと自覚してる。 パチ、と新しくゴムをつけ変えた百瀬は、ギシ、と再びベッドの上に上がる。 「お話はこれくらいでよろしいですか?」 「……終わったら、さっさと翔弥のとこ、戻れよ」 「あの子を気にかけてくださり、ありがとうございます」 にこ、と上っ面だけの笑みを残して。 百瀬はまた、俺を組敷いた。 「あ、っ、あぁ」 「………先生、感じてくれてます?私ので……。それとも、久しぶりの違う人間に興奮してますか」 「……っ!」 緩かったピストンは、段々激しくなる。 芦屋みたいな優しい抱き方ではない。 神ノ木みたいな、仕事の義務感もない。 百瀬のヤり方は、一晩限りのなんの制約もない性欲のぶつけあいだ。この瞬間だけは、誰のことも考えられないくらい。 ーーこんな感覚は久しぶりだ。 「も、百瀬……っ、」 「いいですよ、出してください。足は閉じないで」 「ん、……っ!見んなよっ……」 「誰かをこうやって見ることは、なかなかありませんので。……新鮮ですね」 「くそっ……!」 最後ーーズブッと奥を突かれてドクドクっと欲望が放たれた。 それと同時に、俺のナカで百瀬も熱を吐き出す。 「………ん、……」 「………へぇ」 ズルッと抜き出されたそこは、生々しく濡れていた。 百瀬は少し身体を震わせたあと、ゴムを丁寧に処理した。 「……は、はぁ……」 「新見先生。良かったです。一度きりなのが惜しいくらい」 「……!?はあ?ふざけんな。二度とお前とはしねーよ。約束通り、芦屋にはなにも言うなよ!」 「ふ、言いませんよ。これでも私、口が固いので」 そのセリフとともに百瀬は、一瞬の隙をつきガッと乱暴に俺の首もとをつかんだ。 「!?」 ーー息ができない。 驚いて百瀬の手を離そうとするが、押さえる力が強すぎる。 「……っ殺す気か」 「ーーまさか。そんなことして人生棒に振るわけありません」 「………っ、」 「ただ……あなたにどうしても言いたいことがあって」 百瀬は少しだけ力を弱めたあと、俺の上からこちらを見下ろし、先ほどまでとはうって変わった冷たい目をしながら、言った。 「芦屋さんとのことを口外しない代わりに、進司さんとの『契約』が終了したら、二度とあの人と寝ないでください。たとえ『再契約』を促されたとしても、必ず断ってくださいね」 「……!!」 進司? ーーなんだ、こいつ。 やっぱり神ノ木進司が好きなのか? 最初からそれが目的か。俺が神ノ木の部屋に呼ばれるとき、確かに毎回いい気はしてないみたいだったが、俺が邪魔だったんだな。 「はは。なるほどな。お前、最初から俺のこと嫌ってたもんな。……俺をさっさとお役御免にして、自分が社長と関係を持ち直したいってところか?」 「……わかっているなら早くそうしてください。社長の気まぐれには、私も心底困りました。本当は、翔弥さまとあなたが関わるのも腹立たしかったんですが」 「…………」 「でも、翔弥さまはあなたを気に入ってる。あなたがきてから確かに成績は上がりましたし、高校に行くときも精神的にわりと落ち着いていました。あなたの雇用に関しては、社長が決めたことなので仕方ないです。まあ……高い報酬を受けてるんですから、結果を出してもらって、当然ですけど」 「……お前、よく喋るな。……なんで付き人(このしごと)を?」 「無関係のあなたにお話することではありませんね」 「………くそったれ!」 俺はそう言い残し、さっさと服を持ってバスルームに向かう。 ーーあんな敵意を向けられるのは、久しぶりだ。 「ーーー最悪だ」 全身が気持ち悪い。早く流したい。 シャワーで全身流して、百瀬の気配を消し去りたい。 あーくそ、なんも考えたくない。 俺はバスルームにしゃがみこむ。 神ノ木とはただの契約、翔弥に関しては仕事なのに。 百瀬もそれは、わかってるはずだ。 その上でのあの敵意……自分で決めたこととはいえ、正直参る。 「…………」 芦屋は、今頃、なにをしてるだろう? ーー芦屋に会いたい。 こんな状態じゃ会えないのをわかっていながら。 「つーか……芦屋は全然関係ねーんだよ……本当ふざけやがって……百瀬の奴」 ーーたかがSEX一回で秘密にしてくれるなら安いよな? だって俺は、芦屋(あいつ)と一緒にいたいから。 俺は恋人である芦屋の顔を思い出していた。 またひとつ、あいつにつかなきゃいけない嘘が増えたことに、自分で自分を呪いたくなった。
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