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カチ、とライターをつける音がして煙が空気に混ざった。
「ーーで?明日からの仕事って?」
上半身裸で地声もキレイな男がベッドに腰掛け、タバコを吸いながら俺に聞いた。
「カウンセラーだよ。週5だから、平日毎日だな」
「……へぇ。ついにお前も落ち着くのか?」
「いや~どうかな。カウンセリングはおまけみたいなもんで、実際は大学合格させてやらなきゃいけねぇから……俺の今の学力じゃ、頭足りなくなるかも」
「大学首席入学だった奴に言われてもな」
そう言う男ーー芦屋龍樹は、俺の大学時代からの友人だ。今の本職は声優。メジャーではないが、ちょこちょこコンスタントに仕事はあるらしい。他にもweb配信とか今時のSNSを使って仕事をしている。俺も芦屋の声は好きだ。ーー特にヤッてるときの。
「首席入学って、一体何年前の話だよ?」
俺は芦屋の隣に寝転びながら笑う。
「5教科7科目、覚えてるわけねぇだろ」
「まあ、実際使うのはそのうちどれかだろ?最近の大学試験がどうなってるのか知らねぇけど」
「お前知ってる?今って、センター試験って言わないんだぜ?」
それは知ってる、と呟いて芦屋は仰向けになる俺にキスしてきた。
「で?その家庭教師先のガキ、どんな奴?男?女?かわいいかカッコいいか、どっちよ?つーか、どこの誰?」
「ーー言うか馬鹿。守秘義務」
「性別くらいいいじゃねぇか」
「…………まあ、男?」
「男。は、そりゃ嫉妬しちまうかも。新見先生と毎日一緒なんて」
「高校生のガキだぞ?受験生相手に勃つかよ」
そう言ってしまってから、しまった、と口に手を当てる。
芦屋はニヤニヤしながらこちらを見てくる。
「高3の男ね。食べ頃じゃん」
「………マジで勘弁して、お前………」
相手は大企業の息子だぞ?下手なことしたらクビだけじゃ済まない。
俺を紹介してくれた大学時代の恩師の顔にも泥を塗ることになる。
「別に誰にも言わねーよ。俺とお前の秘密」
「………芦屋」
ジュ、と灰皿にタバコが押し付けられると、そのまま馬乗りされる。
ーー芦屋とするのは好きだ。気兼ねしないし、身体だけの関係だと割りきれる。
そこに精神的な繋がりはない。依存や寄生もない。その方がーー楽だ。
「ん……っ…、」
カウンセリングという作業は、ストレスが溜まる。クライアントは即効性を求めてくることが非常に多いが、カウンセラーは神ではない。
実際カウンセリングは何度も時間をかけて行い、その人の悩みや症状を理解し手助けしていくものだが、すぐになにか物事が解決する答えをもらえるんだと思ってやってくる人間が多すぎる。結果、初回の数十分程度では、なんの解決もなく不満を訴えられることもある。
説明して理解してくれたら御の字。駄目なら二度と会うことはない。まあ、料金も高いから仕方がないことだけど。
「新見……」
「………あ?」
「……いや、お前いつも悩みを相談される方だから。行き詰まったら、俺に言えよ?」
「……はは、俺一応プロなんですけど?」
「知らん。患者を癒せるのは、カウンセラーだけじゃねーだろ。声優だって、誰かの癒しにはなってる」
芦屋はそう言うと再戦モードになる。
さっき2回したんだけど。……まあ、いいか。
SEXしなきゃ、やってられない。
俺は芦屋が首もとに顔を埋めてきたのを合図に、奴の首に腕を回した。
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