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「ーーだからなんでそこのXにそんな式が入る?昨日説明しただろ、理解してねぇのか」 「………す、す、すみません」 翔弥に出した数学の小テストの採点をしながら、俺は早くもギブアップしそうだった。 こいつの家庭教師になって早2週間。世間はゴールデンウィーク真っ只中だが、俺は神ノ木社長の要望もあり、休日出勤している。 ゴールデンウィーク明けの高校のテストでまずは平均以上を取るために。 その分の金と快楽(てあて)はちゃんともらうから、まあ良いのだが。 「もう、一回。ここは必ず出るから。できるまでやれ」 「………わ、かりました」 翔弥は泣きそうな顔をノートに向けるよう俯く。 ーーやべぇな。想像してた以上に翔弥の理解力が乏しい。特に理数が駄目らしい。暗記ものはそこそこなんだが……。 シャーペンを走らす翔弥を見ながら、俺は椅子に深く腰掛けた。 あれから2週間。翔弥は大人しかった。 キスはもってのほか、手も握ってこない。 目も合わせない。ま、当たり前だけど。 俺はこっそりスマホを見る。メッセージの表示が見えた。 ーー芦屋、か。 『今日の夜、会えないか』という文字を見て、ふと笑う。 「必死か」 「え……、せ、先生?」 「あ、悪い。なんでもない」 スマホをしまいながら、こちらを向いた翔弥に向き合う。 「できそうか?」 「………あ、あの、ここは、………こう、だから………答えは、Dです、か?」 「ーーん、そうだな」 合ってる、というと翔弥はほっとした顔をする。 いかんいかん、俺、もしかして眉間にシワでも寄ってたか? クライアントの相談には慣れてるが、勉強を教えるのは正直慣れていない。できないとつい感情的になってしまいそうだ。 頭のレベルを、翔弥(こいつ)と同じまで落として考えないと。 「あとは、教科書26ページまでの応用と、俺が作ったこのプリントをして……そしたら、次は英語にするか」 「あ、……あ、あの、新見先生」 「……なんだ?」 「その、あ、ありがとうございます。俺、あんな、ことしたのに。丁寧に、指導、してくださり………」 ーーあんなこと。あのキスか。 翔弥は顔を赤くしながら言うが、あんなキス俺からしたら全然たいしたものじゃない。 なんならお前の父親と、お前が想像したら数秒で下半身ベッタベタに濡らしそうなことしてるんだけどなーーなんて口が裂けても言えないけど。 「別に構いません。気にしてないので」 「で、でも」 「仕事中に起きた些細な事故だ。俺は気にしていないので」 「…………」 突っぱねすぎたか?いやだが、翔弥に本気になられてもあとが困る。 神ノ木社長や百瀬は、きっとそういうことを望んでいる。 俺がこいつの懐に入り、惚れさせ、期待を持たせて、結果を出してほしいのだと。 17、8の高校生なんてガキと一緒だ。勘違いさせたら、痛い目見るのはこっちなわけで。 恋愛感情やそれに似た欲望が、精神を壊すキッカケになることは嫌というほどわかっている。 だから俺は、こいつをそういう風に手懐けたりはしない。 「とにかく休み明け、別室受験するんだろ?まずは基本を押さえてこい」 「…………わ、わかりました」 翔弥はそれ以上なにも言わなかった。それでいい。受験生は性に興味なんて持たずにおとなしく勉強してろ。 ーーま、俺は高校生のとき、まあまあ遊んでいたけどな。
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