プロローグ

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プロローグ

目の前に広がる赤・・緋・・朱・・。いつもの団欒風景だった。父さんが居て、母さんが居て、兄ちゃんとゲームして、羅生と羅刹はそれを見て笑っている。そんな当たり前だった光景が、天狗がやって来た途端に一気に物々しくなり、兄ちゃんは僕を抱き締めている。倒れて動かなくなった母さんから流れる赤黒いものが床を伝い、父さんの口からも同じ液体が流れていて、それがとてつもなく怖かった。この天狗は誰だろう・・羅生と羅刹まで怖い顔をしているのはどうしてだろう。そして兄ちゃんはどうしてこんなに強く僕を胸に抱いているんだろう・・。 「坊っちゃま!!お二人共こちらへ!!」 いつも学校まで送り迎えしてくれる松戸がリビングの窓を割って靴のまま入って来て、兄ちゃんは僕を松戸に押し付けた。 「松戸、チカを連れ東京へ向かえ!」 「ヤダッ!!兄ちゃんも来て!兄ちゃんっ!!」 抱き締めてくれていた兄ちゃんの体温が離れて行くのが怖くて、松戸が泣きそうな顔で僕を抱きかかえた後も必死に手を伸ばす。 「八雲様・・東京でお待ちしております」 「松戸、頼んだぞ。・・生きろ・・チカ」 遠ざかって行く兄ちゃんの小さく笑った顔を見たのは、それが最後だった。
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