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*エピローグ
「あれ? 仲直りしたんだ?」
週明けの昼休み、学年末の仕事があって職員室を出られなかったので、やむなくそのまま自席で弁当を広げていたら、当たり前のように三嶋が覗きこんできた。
先週までなら彼の登場に軽く苛立っていただろうけれど、今日は違う。
そう、彼の言うとおり、正真正銘仲直りしたからだ。
大人気ない自覚はありつつも、臆面なくその嬉しさをにじませるのを止められない。こういうとこがあるから、ノンちゃんが余計な心配していままで好きとか言ってくれなかったんだろうけれど。
ちなみに今日の弁当は、エビフライにマッシュポテト(どちらも昨夜の残り)、ニンジンのバター煮、ちくわのチーズ詰めに塩もみキュウリ、そしてシソのふりかけたっぷりのご飯だ。
エビフライを見せびらかすように食べていたら、三嶋は呆れたような、それでいて俺よりも年上の人のような目つきをして微笑んでいた。
「よかったじゃん」
「おかげさまで」
「あれ? 先生たちはそういう関係じゃ~、って言わないんだ? ってことは、認めるってこと?」
「さー、なんの話だろうねぇ」
先週までより気持ちにすごく余裕があるから、探りを入れてくる言葉も交わして笑うこともできる。
「え~? なにそれぇ」と、三嶋はすぐに年相応の雰囲気になって口をとがらしていたけれど、俺はただ涼しい顔しているだけだ。
腑に落ちないと言いたげな顔をしている三嶋をよそに、弁当に注意を戻して箸を進めていると、「ねえ、鹿山先生」と、また三嶋から声をかけられた。
「なに?」
「確認なんだけどさ、先生と、馬越先生って幼馴染なんだよね?」
「そうだよ」
「それで、実家もいまもお隣さんで」
「俺は馬越先生に弁当を作ってもらってる」
「だよね」
「そうだよ。それが?」
もう幾度となく繰り返してきた俺とノンちゃんの関係を確かめる三嶋とのやり取りがおかしくて俺が苦笑すると、ますます彼はわからない、と言いたげに首を傾げていた。
しばらく腕組みをして考え込んだのち、三嶋はこう訊ねてきた。
「ねえ、先生たちってさ、どういう関係なの? 幼馴染とかお隣さんとか以外で言うなら」
そう来たか、という問いかけに、今度は俺がちょっと考え込む。
幼馴染でお隣さんで、そして恋人同士……というのはちょっとここでは言えないから、そうじゃない言い方で俺らの関係を言うならば、なんだろうか。
箸を持ったまま口をもぐもぐさせながら考えてから、俺は思いついた言葉を口にしてみる。
「そーだねぇ……まあ、“互いの心と胃袋をつかみ合った仲”って感じかな」
俺の言葉に、三嶋はきょとんとしていたけれど、俺がニヤッと笑ったら、目を丸くして何かを心得たように大きく何度もうなずいた。
彼が俺とノンちゃんの関係をどう捉えたのかは知らない。ひょっとしたら俺が期待した通りじゃないかもしれない。
でもきっと、悪いようにはならない、と、思いたい。だって俺はただ、「心と胃袋をつかみ合った仲」としか形容していないのだから。それ以上は彼の想像でしかないのだから。
「またノンちゃんに怒られちゃうかなぁ」
塾で三嶋にさっき俺が言ったことを言われて、ノンちゃんがどんな顔をするのか気になったけれど、渋い顔をした後に溜め息交じりに苦笑して最後には俺を許してくれる姿が浮かんだ。
その顔はこの世で一番俺を愛してくれている、大好きな表情であることを俺は知っているから、口ではそう言いつつも、不安は一切ない。
今日の夕食は何だろうなぁ……と、考えながら、俺は二匹目のエビフライを頬張る。
頬張ったエビフライはノンちゃんの愛の味がした。
(終)
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