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*プロローグ
俺・鹿山朔と、同い年で幼馴染のお隣さんのノンちゃんこと、馬越望の間には甘くておいしい関係が成り立っている。
大偏食な俺のご飯作って! というかなり無茶苦茶な頼まれごとを引き受けてくれたのをきっかけに、俺とノンちゃんは「ただの幼馴染でお隣さん」、から、「心も胃袋つかみ合ったお隣さん」になって、そして恋人同士になった。
俺は全く料理ができないけれど、そういった意味でじゃなくてノンちゃんの心と胃袋をつかんでいる自負はあるつもりだ。――どうやって、なのかはご想像にお任せするとして。
とは言え、ケンカすることもたまにある。
そんな時はいつもノンちゃんが黄色くてやわらかで甘いアレを作ってくれて、そして一緒に食べて仲直りするのがお約束なんだ。
「おーいしー!」
「さっきまであんなに怒ってたくせに……ほんっと、サクはチョロいよな」
ノンちゃんお手製のそれをスプーンで掬って食べていたら、毎度ノンちゃんはそう言って苦笑する。
チョロいとか単純とか言われていい気はしないものなんだけれど、それでもノンちゃんが作ってきてくれたそれはそんな腹の立つ気持ちさえも帳消しにしてくれる。それぐらいに美味しくて、俺は大好きなんだ。
「俺、きっと全部の記憶なくしたとしても、ノンちゃんが作ってくれたプリンの味は絶対憶えてると思うな」
「っはは、そりゃすげぇな。で、俺のことは忘れるんだな?」
「そんなことないよ! 絶対忘れない! だって大好きだから!」
俺がスプーンを高く掲げながら宣言しても、ノンちゃんは軽く笑って、「へいへい、せいぜい顔と名前は憶えててくれよ」というのだ。
あんまり本気にしていないノンちゃんにムッとしつつも、俺はまた手許のプリンを食べ始めてムッとした気持ちが落ち着いていくのを感じた。
(――そもそも忘れるわけないじゃん、ノンちゃんのことも、プリンのことも。どっちも俺には欠かせないんだから……)
俺とノンちゃんの絆はなによりも強くて硬いんだ。きっと誰にも邪魔も途切れさせることもできない――そう、思っていたのに。
世の中って、思ってもいなことが案外簡単に起きるものなんだ。
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