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*8 思い出した大好きな甘いあまい味
プリンの名残もそのままに、俺とノンちゃんはダイニングで数えきれないほどキスをして、抱き合いながらお互いの服の中に指先を滑り込ませる。
まるで初めてお互いに戯れじゃなく触れ合った時みたいに、ドキドキしながら身体の造りを確かめ合うように触れていくのはすごく興奮を伴うんだと気付かされる。
「ッあ、ンぅ……っは、あぁ!」
「サク、お前筋トレサボって不摂生したな? 腹、ちょっと緩んでないか? 弾力は……まあまあ、かな」
「え、あ……っはぁう! っあぁ!」
「相変わらずかわいい声出しやがって……今日は鍛え直すつもりで抱いてやるから、覚悟してろよ」
ベッドに寝かされ、身体の隅々まで愛撫されて囁かれた言葉に俺は耳の端からつま先まで赤くなっていくのが止まらない。
ノンちゃんって、こんなにエッチだったっけ……久しぶりに垣間見る恋人の思い掛けない姿に躰が期待で疼いてしまう。
なんで俺がプリンを食べたら発情していたのか、その理由がなんとなくわかった気がする。
プリンは俺にとって大好きな人の味であり、安心するものでもあるからだ。あの甘くやさしい味に包まれていたら、それを作ってくれた人への想いが無意識に、本能的に込み上げてきてしまっていたんだろう。
でも頭を打って以来、俺の記憶から肝心のノンちゃんに関するものが封をされたか抜け落ちてしまっていたかしたから、肝心の誰への想いなのかがわからなくて悶々としていたのかもしれない。
ぐるぐると思い悩んでいたことが、ノンちゃんのプリンを食べてからパズルを解くようにつながっていって明らかになっていく。目に映る景色への解析度が上がった気さえしたほどだ。
でもいま俺の目に映っているのは見慣れた景色ではなく、久々に見上げるノンちゃんの何もまとっていない肉体だ。
「鍛え直す、って……なにす……っは、あぁん!」
「ここも感度は良好みたいだな……かわいいな、サク」
「あ、あ、っは、そこ、っやぁ!」
「サクは胸触られるのが好きなんだもんな。こことか、舐めたら甘いしな」
「っは、あぁん!」
胸元の飾りから、ノンちゃんは造りをなぞるよう舌を這わせつつ胸をもむ。筋肉があるせいですごくそこを感じてしまうことを、いまさらに思い出す。まるで剥き出しの敏感な神経に直に触られているかのような快感だ。
「サクの胸はマシュマロ並みだな……あったかくてやわらかい……食いたくなる」
「っふぅ! っは、あぁ!」
胸を舐めて味わいながら、ノンちゃんの手はちょっと緩んでしまった腹筋を伝う。久しぶりに触れてくる指の感触に甘い声が止まらない。
まだただ愛撫されているだけなのに、久々の快感に肌の奥からノンちゃんの感触を悦んでいるみたいで、彼のすべてを感じてしまう。最初あんなに唇を噛んで堪えていたのに、いまはもう無意味にほどけている。
「あぁ、んぅ! ノンちゃ、んぅ!」
「舐められるとここもぴくぴくなるんだな……舐めるほど硬くなってく」
硬く勃起している躰からは先走りが溢れていて、身体の愛撫よりもそこにダイレクトに触れて欲しくてうずうずする。
それを無意識のうちに態度に出していたのか、気付けば俺は自ら腰をノンちゃんの方へ突き出すようにゆるく振っていた。
もちろんノンちゃんにすぐに気付かれて、そして俺を見おろしながら薄っすら微笑んでこう言われたんだ。
「――わかったよ、今すぐ腹いっぱい食わせてやるよ、サク」
うなずく代わりにノンちゃんを抱き寄せて口付けると、そこはまだほのかにプリンの甘い味がして、俺はその甘さに酔わされるように脚を開いて彼を受け入れた。
きっとまだ半分も咥えきれていないのに、彼がナカにいるというだけで体内が疼く。
何カ月ぶりになるかしれないセックスの始まりは、ノンちゃんからのたっぷりとした愛撫から幕を開け、そしていまひとつになれた。
「あぁ、ン、っは、ンぅ……」
「久々だからかな……すっげぇ、キツくて、きゅうきゅうしてくる……そんなに食いたかったのか?」
「ん、ッはぁ、ン……ね、もっと、シて……」
「いいよ、もっと、欲しがれよ――俺も、サクが欲しくて仕方なかった。このたくましい身体を、組み伏せたかっ、た!」
「ん、あぁ、ンぅ! っはぁう!」
ぐっとノンちゃんが身体を押し付けてきて、奥へと入り込んでくる。圧迫感で息が止まりそうになるのを、ノンちゃんが唇で塞いでくる。
ずっとこの熱が欲しかったのかもしれない。俺の身体を作ってくれている大事な“栄養”なのに、あの日からずっと欠けたままだったから、寂しくてお腹が空いて仕方なかったんだ。
身体が不摂生で線が緩んだように、心も彼が欠けて緩んでしまっていた。でも記憶が欠けていたから気付けなくて……それを補うように俺は無意識にプリンを求めて食べていたのかもしれない。
だからどんなに色んなプリンを食べてもぐるぐるする想いと疼きが治まらなかったはずだ。だって、ノンちゃんが作ったものでなくちゃ俺の記憶は戻らなかったし、心と身体のバランスが整うこともなかっただろうから。
ゆっくりとインサートしてきた躰の熱を感じながら、俺とノンちゃんは数センチの距離で見つめ合う。
「ノン、ちゃ……ノンちゃん……」
「サク……」
「好き、すごく、ずっと……好き……」
「俺もだよ、サク。好きだ」
「なんか俺、やっとお腹いっぱいになれてる気がする……」
「うん、俺もそんな気がする。俺ら、ずっと空腹だったんだな」
「ね、もっと、シて。お腹いっぱいになって、動けなくなってもいいから」
「いいよ。お前のナカ、俺でいっぱいにしてやる、よ!」
「あ、あぁん!」
交わし合う言葉の甘さと愛しさに涙が溢れてくる。そこから溢れる安心感にも、溢れる涙が止まらない。
ノンちゃんは俺の頬を伝う涙をそっと舌先で掬い取ってくれて、そしてまた俺を貫く。
強く、俺の腹部に宛がわれたノンちゃんの指が食い込んでくる。そのはずみで上から押されて、一層彼を感じる。悲鳴のような嬌声をあげながら、俺はさらにナカの彼を締め付けた。ノンちゃんが、小さく喘ぎ声を漏らしたのが聞こえて、俺はなんだか嬉しくなった。
俺ら、お互いをすごく感じ合ってる――その悦びが肉体の奥から湧き上がってくる。
「っは、っく……すっげぇ、締め付けだな、サク」
「あぁ、ンぅ! ッあ、圧したら、ぎゅんてなるぅ!」
「っあぁ、すっげぇ、気持ち良いな、サクのナカは……」
「ねえ、ノンちゃ、ん……」
「うん?」
「また……プリン、作ってくれる?」
俺が乱れた呼吸の狭間にそうねだると、俺のナカにいる熱がぎゅんと存在感を増していくのを感じた。
熱く汗にまみれた肌にノンちゃんが口付けをして、片頬をあげて笑う。
その表情と体内の快感に甘く痺れていると、ノンちゃんはより嬉しそうに微笑んで、もっと肌を密着させながら囁く。
「もちろん作ってやるよ。お前が欲しいだけ、いくらでも」
「あ、あぁ! ノンちゃんぅ!」
「ホント、サクは食い意地が張ってるよな……俺、全部搾り取られそうだ」
「だ、ってぇ」
まるで俺が欲しがりの淫乱のような言い方に反論しようとすると、ノンちゃんはくすりと笑って俺の汗ばんだ額を撫で、「わかってるよ、腹いっぱい食わせてやる約束だもんな」と、言った。
ノンちゃんって、こういうちょっと意地悪しつつも甘いこと言いながらエッチなことしてくるんだったっけな……ぼんやりと記憶を思い出していたら、急に抱き起されて、俺がノンちゃんの上に跨る体勢になった。
その体勢は奥へと彼の熱を感じるもので、急激に加わった刺激に俺は悲鳴をあげ、軽く射精してしまった。
俺が吐き出したものがノンちゃんのお腹の上に散ったのに、ノンちゃんは構わず俺を下から突きあげてくる。
「ん、あ、あぁ! っあ、あぁ! っや、いま、イッ、た、ばっかぁ!」
「ほら、いっぱい食えよ、サク……できなかった分、全部やるからな」
「あ、あぁ、んぅ! っやぁ! っはぁう!」
軽く達したせいでさらに敏感になっているナカを抉るように突き上げてくる熱の存在感に意識が攪拌されていく。
繋がりあった身体と身体が溶けてひとつになっていく音がする。下品で淫らで、とても熱くて甘い音が。
いままでずっと奥で疼いて出口を捜していたなにかが、突き上げられるたびに突破口目指して蠢いているのを感じる。そしてその限界はそう遠くないだろう。
俺の腰を掴んで突き上げているノンちゃんの腰の速さが上がっていき、煽られるように俺は迫りくる快感の波を待ち受ける。
「っは、ッあぁ、あ、あぁ、イ、く……!」
「ノンちゃ、俺、も……あ、あぁ、あぁ――ッ‼」
身体をゼロ距離で密着させながら感じ続けるノンちゃんの熱は、あの事故以来疼き続けていたものを伴って俺の躰から再び派手に解き放たれる。
白濁が放物線を描くように吐き出されたその時、ノンちゃんが強く俺を抱き寄せてきた。
「サク……!」
耳元で名前を呼ばれたと思った瞬間、俺のナカが熱いもので満たされていくのを感じ、俺は小さく甘い声を漏らす。
限界を超えた快感の波は頭から俺を呑み込んで、そのまま意識ごと俺を苛んでいた感情から解き放ってくれた。
「……ク、サク。おい、大丈夫か?」
絶頂して意識を手放したところまではなんとなくわかっていたけれど、そのままノンちゃんの上に倒れ込んでしまっていたとは。
ノンちゃんの腕の中で我に返った俺は、心配そうな顔でこちらを見ている彼を見つめる。
「うん、大丈夫だよ」
「悪い、久々にできたのが嬉しくて、つい加減を忘れた……」
身体痛くないか? と、ノンちゃんは繋がりを解きながら俺の腰とかをさすってくれる。触られるとまだ余計に感じてしまうんだけれど、気遣いが嬉しくて俺はもう一度大丈夫だよと応える。
「そっか。じゃあ、いま風呂用意するからな。あと、なんか飲むか?」
「うん、ありがと。頼んだ」
それに安心したのか、ノンちゃんは軽く俺のおでこにキスをして、それからタオルと飲み物を取りに行った。
俺のナカに放たれた白濁の熱の感触と、さっきまで俺を包んでいた体温を思い返しながら、俺はようやく訪れた平穏で見慣れた光景に安堵する。
随分と長い妙な夢を見ていたような気分だと思った。当たり前に感じていたものを忘れてしまって、欠けたまま過ごしてきていた数か月が不思議でならない。いまではそっちの方が思い出せないくらいだ。
「サク、スポドリあったから、飲むか?」
台所から戻ってきたノンちゃんが、ペットボトル入りのスポドリを手に戻ってきた。
俺が久々の激しめのセックスでギシギシ痛む身体をようやくの思いで起こそうとすると、ノンちゃんがやさしく包み込むように抱き起こしてくれた。
「ノンちゃん、ありがと」
「いいって。それより、大丈夫か?」
「うん、平気だよ。俺が丈夫なの知ってるでしょ? こんなの全然平気」
「まあ、そうだけど」
「それにね、俺、嬉しいんだ。またちゃんとノンちゃん思い出せて、こういうことできて」
まさかプリン食べて発情していたなんて言えないけれど、でも、こうしてまたノンちゃんと抱き合えたことは素直に嬉しいのは事実だから、それをそのまま伝える。
ノンちゃんは俺の隣に座って、そしてまた抱きしめてくれた。いつもと変わらない、ほのかなタバコのにおい。
大好きなノンちゃんの手作りのプリンが再び巡り合わせてくれた奇跡に感謝しながら、俺はノンちゃんの唇に自分のを重ね、にやりと笑ってこう言った。
「――そんじゃ、風呂のお湯が溜まるまで第二ラウンドといくか。たるんでるサクを鍛えなきゃだからな」
望むところだよ、と、答えるよりも早く俺は手にしていたコップをサイドボードに置いてノンちゃんのキスを受ける。
舌の絡み合う濃厚で濃密なそれは、一度クールダウンした肌の熱を再び上げていく。
ノンちゃんの指先はまた俺の胸元をまさぐり始め、俺は応えるように声を漏らす。厳ついとも言える俺の身体からは想像もつかないであろう、甘い声を。
「っやぁ、あぁん!」
「さっきよか感度上がってるな……ホント、サクはかわいいな。鍛えがいがあるよ」
そう微笑みながらノンちゃんが寝ころんで俺を彼の上へといざない、熱を持ち始めた躰に触れる。下からは俺の躰の乱れ始めたところが丸見えで恥ずかしいのに、それが気持ちいい。無意識に腰を擦り付けてしまうほどに。
再び始まったノンちゃんからの愛撫に溜め息をこぼしながら、俺はゆっくりと彼の熱を呑み込んでいくのだった。
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