回復不愉快不服かい?

4/9
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
「でも変ですわね。そんな便利なもの、ひとつも持ってらっしゃらないのはなぜ? 後先考えずすぐに使いきるほど計画性の無い方? あ、ひょっとして高価で買えないとか? 見たところ貧弱そうな武器と防具を装備していますものね」  娘の悪意ある疑問に騎士は気まずそうに口を開いた。 「……ゎった」 「はい?」 「モンスターとの戦闘中に全て割ってしまったのだ! 不慮のアクシデントだ! 激しい戦いの中ではよくあることなのである!」 「あらあら、それはお気の毒様。まあ割れやすいビンに入っていたのならしょうがありませんわ。その点、薬草なら例え落としても壊れたりしませんのに。ほら、この通り」  そう言って娘は薬草をヒラリと騎士の足元に落としてみせた。 「……何の真似だ? まさか我輩に、地面に落ちた薬草を拾って食えと?」 「とんでもございませんわ。私はただ不要な道具を捨てただけでございます。薬草ならこの森でいくらでも採れますし。そもそも誇り高き騎士様がいやしく人が捨てた物を拾ってまで生き長らえようとするわけがないと私、信じておりますわ」  騎士は心の中で葛藤した。それは先程の魔物との戦いよりも一進一退の激しい攻防だった。  血が滲むほどの歯軋りの末、騎士の心は音を立て砕け落ちた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!