回復不愉快不服かい?

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「……止む終えまい。一度だけ。我が人生でたった、たった一度だけこの不味そうな草を使用することを許す。もはや誇り云々言っている場合ではない。我輩にはクリスタル捜索という大いなる使命がある。こんなところで倒れるわけにはゆかぬのだ……!」  断腸の思いで落ちている薬草に手を伸ばす騎士。その時、横から差し向けられた手に遮られた。 「む、娘?」  手を差し伸べたまま娘は聖母の笑みを浮かべ言った。 「おおまけにまけて50ゴールドでよろしいですわ」 「待て待て待ていッ! 金を取るのか!? 今いらないからと捨てたのにも関わらず売る気なのか!?」 「イヤですわ。もちろんその地面に落ちている汚らわしい薬草ではなく新しい薬草を売って差し上げるのですわ。まあお金が惜しくて捨ててある薬草で妥協するほどケチなのでしたら見て見ぬフリをして差し上げますけども」  騎士は無言で腰に下げた袋からコインを掴み娘に突き出した。 「あら、なんですのこのお金。見たことありませんわ」 「50ギルだが、普通に一般流通している貨幣だぞ?」 「ぎる? 相場がわかりませんけど……ま、金であることには変わりありませんし、結構ですわ」  娘から薬草を購入すると、覚悟を決めていた騎士は躊躇せず一気に口にした。 「ぺっ! にがっ! マズっ!」 「良薬は口に苦しですわ」  騎士はHP(ヒットポイント)が30回復した。 「な、なんだ? ちっとも回復しないではないか。はっ、どこが良薬だ。こんな陳腐なものレベルの高い冒険者には不要な産物だ。宝箱に入っていたらがっかりするもの第一位で決まりであるな」 「おっしゃる通り薬草の回復量は微々たるものですわ。でも全ての人間が高いレベルを持っているわけではありませんのよ。むしろこの世界、騎士様のように低レベルの人間の方が圧倒的に多いのですから薬草は十分需要があると思いますわ」 「娘、そなたは一度毒消し草を食え。その毒舌治るやも知れぬ」 「いえ毒消し草にそのような効能はございません。毒消し草はあくまで体内の解毒作用のみ。冒険初心者でも知ってて当然の常識ですわ」  こんな屈辱を受けるなら魔物に出くわし潔く自害した方がマシだった。騎士は苦虫を噛み締めた表情を浮かべ思った。
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