帚皇帝の心変わり

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 左様でございますとも。あのような陛下を拝見したのは、あの時だけの事でございました。  お顔の色と来たら、もう蒼白で。それに、ブルブルと慄えておいででした。まるで、幽体でもごらんになったように。  居あわせた者は一様に、陛下の視線の先を見つめます。すると、そこには、小柄な50ほどの女性が立っていました。後に、爽莉様は、もっと歳上だとわかるのですが、とてもそうは見えない。どう見ても、50くらい。下手をすると、もっと若く見える。  彼女は、ニコニコとしながら「お久しぶりでございますね。陛下と、久々にお話し致したく存じます」すると、陛下は異な事に、周りの者の見回します。助けでも求めるかのように。あの陛下が! やがて、陛下は諦めたかのように、お人払いをなさいました。一同は、部屋に陛下と爽莉様を残して、一度は部屋を去ったのでした。  古株の女官に聞いたところ、爽莉さまは、陛下の幼少の折の先生だったそうです。頭の上がらない相手という事でしょうか。  ほんのひと時といったところでしょうか。お二人の時間が過ぎ、私達は、また、呼び戻されたのです。爽莉様は、すぐ立たれました。おひきとめしたのですが。  それ以来、陛下はお変わりになられました。あのように、傍若無人で、陰で暴君の名を奉られていたのに。それ以来、すっかり、穏やかになられて。 もちろん、ありがたい事なのですけれど。  私達は、口々に「爽莉様のお薬が、陛下に効いたのだ」と言い合いました。しかし、それが、どういうものなのか、誰も知らないのでございます。
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