優しい観客と雲心の雪音

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わたしは薄日に照らされながら降りしきる雪を見つめていた。 雪に宛てて手紙を書いてみたけれど、雪に読まれるわけでもなし、ましてや雪が返事をくれるわけでもなし。ただ虚しくて、胸が苦しくなった。 今の恋を終わりにするべきか否か。わたしがいたら、カレが琴吹さんと付き合えなくなるから迷惑だとすら思っている。 琴吹さんはどんな人なんだろう。会ったことないから分からない。でも、どうやらその子は(あさ)()先輩を恨んでいて、カレが先輩にを渡すよう頼んでいるそうだ。 カレはとても素直な人だから、わたしに全部話してくれた。 琴吹さんに好意を持っていること。金銭的な借りがあること。そのために犯罪行為を(そそのか)されていること。好意と罪への恐怖によって苛まれていること。 カレは、麻美先輩に一粒の錠剤を飲ませるように指示されたらしい。 メチレン何とか⋯通称MDMAと呼ばれる麻薬を飲ませ、その後は半グレの男に先輩を引き渡す。それがどのぐらい重い罪になるのか知らないけど、半グレさんが何をするのかは大体の想像がつく。要するに麻美先輩を傷つけようってことだ。 そしてカレはやっぱり素直な人だから、先輩にそれとなく伝えてほしいと言った。 絶対に得体の知れない人と会うな。貰い物を口にするな。琴吹さんは先輩の優しさを利用して破滅に追い込もうとしている。夜道で一人歩きも危険だ。彼女はお金の力で素行の悪い人を数人飼っている⋯と。 そうは言いつつ、カレは琴吹さんに心を寄せていて、警察には通報するなとも言った。そうすると俺が困るからと。何とも身勝手な言い分だ。
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