優しい観客と雲心の雪音

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電車を降りて、ロータリーをまたぐ。ナビアプリに指示されるまま、目印となるコンビニや本屋さんの前を通り過ぎる。 ええと、この路地⋯みたいだ。()(みち)に入ると、白い雪に映える淡い桃色のアパートが見えてきた。小刻みに扉があることから、二階は内階段タイプの建物らしいと推測できた。麻美先輩は201号室。表札はなく、少し怖気づきながらチャイムを鳴らす。やや間隔があって、先輩の明るい声が聞こえた。 『おお、雪の中お疲れさん。今迎えに行くから待っとってな』 トントントンと階段を下りてくる音がして、鍵とチェーンが外され、タオルを持った先輩が顔を見せた。 「ほら。寒かったやろ。部屋あったかいから、早よお入り」 わたしがコートに積もった雪を払い、玄関の中に入ると、先輩はすぐに鍵とチェーンをかけた。 「物騒な世の中やから用心せんとね。加菜に何かあったら申し訳ないし」 そのわたしのカレが先輩に危害を加えようとしているんです、とは言えなかった。渡されたタオルでコートを拭く。促されて階段を上がっていくと、温かい空気に身を包まれた。 丸いクッションの上には、手足を伸ばして眠りこけたハチワレの白猫がいる。他人が部屋に上がり込んでいるのに警戒心の欠片もない。よほどこの部屋が安全だと思っているんだろう。
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