1人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
『紫陽花ってね、「四葩」とも言うのよ』
『よひら……?』
『そう。花びらが四つあるから、四葩なの』
『へぇ……!かあさんはなんでもしってるんだね』
『ふふっ、そんなことないわよ』
これは……、まだ陽輝が元気な頃のことね。
私はもう一度、紫陽花に手を伸ばす。
『かあさん!みてみて!あじさいつんできたの!かあさんにあげる!』
『あらぁ、ありがとう。私のために摘んできてくれたのね。でもね、この紫陽花さんは家族と一緒にいたいと思うわ。紫穂も、母さんと父さんと離れちゃったら悲しいでしょう?』
『……うん』
『だから、紫陽花さんは家族のもとに返してあげましょう?』
『……うん!』
『よし、紫陽花さん、家族のもとに戻れたね』
『うん!でも……、このあじさい、うちにさいてるあじさいのいろとちがったから……。かあさんにみせたかったの……』
『そっかぁ。じゃあ、これから綺麗な紫陽花を見つけたら、母さんを連れてきてちょうだい。そうしたら、見れるでしょう?』
『うん!わかった!かあさん、だいすき!』
『私も、紫穂のことが大好き。ずぅっと大好きよ』
紫穂……
そうよ、私は紫穂のことが大好きなのよ。
今まで陽輝のことしか考えてなかったけれど、私が今大切にしなくちゃいけないのは紫穂よ。
私と陽輝の、大切な子どもなんだから。
あぁ、紫穂。
今謝ったところで、許してくれるかしら。
いえ、許してくれるかなんて関係ないわ。
私は紫穂を育てる義務があるのだから。
今までの分まで、たっぷり愛してあげなくちゃ。
そうしたらきっと、また前みたいな、仲の良い家族に戻れるわよね……?
そういえば、家を出るときに紫穂の靴がなかったわ。
どこかへ出かけているのかしら。
紫穂が帰ってくる前に、夕飯を作らなくちゃ。
紫穂の好きなオムライスがいいかしらね。
輝く紫陽花、四葩をふわりとなでて
すっきりと晴れた心で、私は家へと戻った。
最初のコメントを投稿しよう!