家族を想う四葩

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『紫陽花ってね、「四葩」とも言うのよ』 『よひら……?』 『そう。花びらが四つあるから、四葩なの』 『へぇ……!かあさんはなんでもしってるんだね』 『ふふっ、そんなことないわよ』 これは……、まだ陽輝が元気な頃のことね。 私はもう一度、紫陽花に手を伸ばす。 『かあさん!みてみて!あじさいつんできたの!かあさんにあげる!』 『あらぁ、ありがとう。私のために摘んできてくれたのね。でもね、この紫陽花さんは家族と一緒にいたいと思うわ。紫穂も、母さんと父さんと離れちゃったら悲しいでしょう?』 『……うん』 『だから、紫陽花さんは家族のもとに返してあげましょう?』 『……うん!』 『よし、紫陽花さん、家族のもとに戻れたね』 『うん!でも……、このあじさい、うちにさいてるあじさいのいろとちがったから……。かあさんにみせたかったの……』 『そっかぁ。じゃあ、これから綺麗な紫陽花を見つけたら、母さんを連れてきてちょうだい。そうしたら、見れるでしょう?』 『うん!わかった!かあさん、だいすき!』 『私も、紫穂のことが大好き。ずぅっと大好きよ』 紫穂…… そうよ、私は紫穂のことが大好きなのよ。 今まで陽輝のことしか考えてなかったけれど、私が今大切にしなくちゃいけないのは紫穂よ。 私と陽輝の、大切な子どもなんだから。 あぁ、紫穂。 今謝ったところで、許してくれるかしら。 いえ、許してくれるかなんて関係ないわ。 私は紫穂を育てる義務があるのだから。 今までの分まで、たっぷり愛してあげなくちゃ。 そうしたらきっと、また前みたいな、仲の良い家族に戻れるわよね……? そういえば、家を出るときに紫穂の靴がなかったわ。 どこかへ出かけているのかしら。 紫穂が帰ってくる前に、夕飯を作らなくちゃ。 紫穂の好きなオムライスがいいかしらね。 輝く紫陽花、四葩をふわりとなでて すっきりと晴れた心で、私は家へと戻った。
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