今宿題やってるから!

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「そうそう。蝉の観察だって十七年しかかからないよ」 「え?」 「えー? お前勉強できるっぽいのに知らないのかよ。十七年ゼミって言って土の中に十七年いる蝉がいるんだって。ちゃんと十七年いるのか見てみないとわからないだろう? 土の中にいるのに、どうやって蝉は十七年わかるのか謎じゃん」 くすくす、くすくす。 「前に面白い雲選手権やった時ってさぁ、アダッちって何点取ってやめたんだっけ?」 「細かい数字忘れちゃったけど、確か三十万点くらい」 くすくす、くすくす。 「え、あ、なに? おかしいだろ」  真っ青な顔をしたタツマ。少しずつ後ずさっていくけど、俺たちは同じくらいの速度で歩み寄る。 「何もおかしくないよ。虫の観察だってずっと続けてればわかることいっぱいあるだろう。途中でやめちゃうからわからないだけで。初めから最後まで全部全部、時間かけてじっくり観察すればいいんだって。一か月もあればじゅうぶんだろ」 「味噌なんて半年でできるんだし、瞬きしたら終わりじゃん?」 「前に蔓がてっぺんまで行ったのっていつで、誰のだった?」 「朝顔だとあっという間に枯れちゃうから、確か葛でやったんだよな。目印つけてさ」 「でも結局ごちゃごちゃに絡まって同時にてっぺんに行ったから引き分けになったんだよ」  今は使われていない大きな鉄塔。元の形がわからないほどに蔓植物が生い茂っている。まるで大きな木のように。その中にほんのわずかに薄茶色に汚れた紐やリボンのようなものが見えた。あれは、運動会で一位を取った人にもらえるメダルだ。  走る、逃げる、早くここから出ないと。しかしアイツらは走っている様子は無いのに、距離が全く開かない。  全力で走っているのに、アイツらはみんな歩いているのにどうして。 「どうしてって気持ちが自由研究の大事なところなんだよ。なあ、どうしてだと思う? タツマ」  声に出したわけではないのに、相槌を打たれた。その事実に背筋が凍る思いだ。 「なに、涼しいの? あ、そうだったな。一番涼しい所選手権まだやってなかったな」 「とりあえず僕はバスのエンジンルーム行ってみる」  鉄塔の下はごちゃごちゃとたくさんの植物が生い茂っている。その隙間から見えた、うち捨てられたバス。窓は全て割れている、中からたくさんの植物が溢れ出している。 「俺はもう単純に、引き出しの中とか」  学校の机に引き出しなんてない。どこの引き出しを言ってる? タンス? 勉強机? どこの、誰の。 「片っ端から全部調べてみればいいだけだから気にすんな」
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