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「枝豆に夢中になってる場合じゃないっスよ。大沼さんのこと、好きなんでしょ?」
「はああっ!? なに言ってんだ、お前!」
思わずデカい声を出した俺に、ドヤ顔で唇の前で人差し指を立てる寺田。いきなりなに言いやがる、寿命が五分は縮んだわ!
「先輩がずっと無言で酒飲みリスになってるから、大沼さんチラチラ先輩を気にしてましたよ。気づいてないでしょ?」
顔が熱い。ツッコミたくても、言葉が出ない。いろんな感情が渦巻き、噴火直前の火山みてえだ。
「俺、応援しますよ。大沼さんが、虎視眈々とセレブ婚狙ってる誰かに取られてもいいんスか?」
ひそひそ言う表情と声は、意外に真剣で。仮におちょくられてたって構わねえ。俺は火山を噴火させた。
「いいわけあるか!」
思わずテーブルをたたく。振動で俺の前にできてた緑色の山が崩れた。
「で、でもお前、なんでそれっ……」
「俺、こういうの得意なんで」
こういうのってなんだ、そのドヤ顔はよせ。そう思いつつも、たぶん俺顔は真っ赤だし心臓はバクバクしてるし、戻ってきた大沼をまともに見れる気がしねえ……。
冷房がきいてるのに額ににじむ汗を、手のひらで拭う。ふう、と大きく息をつく。
「大沼さん、案外ガード固いっスね。やっぱり実家がセレブっての、間違いないかも。先輩も知らないんですもんね?」
首をひねり、ジョッキに残るビールを一気に飲み干す寺田。喉仏が上下し、男らしい。
そうかこいつ、大沼セレブ説がホントか確かめたくて、しつこくその話題をつっついてたのか。
「ああ、知らねえ。なにせ今だって陰で『優良物件』とか言われてるもんな。そりゃ言いたくねえだろ」
社内で時々大沼に向けられる視線の熱さ、明らかに媚び売ってる態度。思い出して、またムカついてくる。
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