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 笑みを含んだ顔で、俺の前にできた枝豆の殻の山を唐揚げが盛られてた空き皿に移す、大沼の手。色白で、指がすらっとした大きな手だ。  ちっちえ俺の手は、すっぽり包まれちまうだろう。抱きしめても逆に、俺の方が大沼の胸に抱かれるようになるのは確実で。あーあ、なんで俺はこんな小柄に生まれちまったんだろうな。 「どうする? もっと飲む?」  自分の取り皿に残ったサラダをつまんで、俺の顔をのぞき込む大沼。ドキッとして、どもったような返事になっちまう。  俺のビールジョッキはほとんど空、大沼のお茶は半分ぐらいか。まだ七時半過ぎ、帰りたくねえなあ。でもせっかく大沼と二人きりになったのにこれ以上酔っぱらいたくねえし、カラオケって気分でもねえ。どうしよっかなあ。 「俺、甘い物食べたいな。この近くのカフェ行かない?」  迷ってる俺に、大沼が言う。 「おう、そうすっか。俺もコーヒー飲みてえ」  大沼が言うカフェはたぶん、大きな道路を挟んで向かい側、神社の裏にある店のことだろう。何度か大沼や、営業部の人達と行ったことがある。夜遅くまでやってて、コーヒーも食いもんもうまくて落ち着いた雰囲気。まさにデートにうってつけの店だ。  もったいねえから、それぞれ微妙に皿に残っていた食いもんを二人で全部平らげて、店を出る。もわっとした熱気は、すっかり暗くなってもなかなか衰えない。銀行がある交差点で横断歩道を渡り、カフェがある路地へと曲がる。  やっぱり、俺が思ってたのと同じ店だった。訊くまでもなく、足の向く方向が一緒でスムーズに店にたどり着く。そんなちっぽけなことすら、俺にはうれしくて。 「あ、よかった。入れそうだね」  大沼が先に立ってドアを開ける。ちょうど空いてた、壁際のソファ席に通された。  昼間は太陽光を取り入れて明るい店内も、夜はガラッと雰囲気が変わる。夜は酒も出してるから薄暗く、あちこちに間接照明が取りつけられてて、テーブルにはキャンドルの炎が揺れる。俺一人だったら、絶対入らねえタイプの店だ。
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