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「アイスコーヒー頼んどいて。ちょっとタバコ吸ってくるわ」  そう大沼に言うと、俺は一番奥の喫煙ブースに入った。ドアの上半分がガラス張りで、ちょうど大沼の姿が見える。黒革のソファにもたれて座る大沼はなんだかアンニュイな感じで、すげえ様になってる。さすが、かっこいいわ。  ぼんやりと何口かタバコを吸って、ふと見ると大沼と目があった。少し照れたように笑う大沼に、俺もなんか照れる。 「樹がタバコ吸ってるとこ、なんかいいよね」  俺が席に戻るなり、大沼が言う。  は? 樹って俺だよな? なんかいい? この俺のどこが?  少し酔った頭は大混乱、にこにこしている大沼に俺はなにも言えなくなる。 「かっこいいって言ってんの。樹は自分が小柄なの、気にしすぎだと思うよ」  かっこいい? 俺が? 誰が見てもイケメンの大沼が、俺をかっこいいって? 嘘だろ?  あまりに意外すぎてポカーンとしてしまう。でも大沼は優しいけど、見えすいた慰めやお世辞を言うヤツじゃない、はずだ。 「眉をひそめて煙吐き出す顔とかさ。かっこいいよ」  ほめられた俺は照れてうつむいた。俺なんか、百人中百人がイケメンだと思わない顔だと思ってたのに。かっこいいと言ってくれるヤツがここにいる。それも好きな大沼が、だ。  大沼が頼んだデザートプレートと、アイスコーヒーが二つ来た。ありがとうございます、と店員を見上げて笑顔ではっきり言う大沼。  大沼はどこ行ってもこんな感じで、よっぽどしっかり躾けられたんだろうな、と思う。動作も落ち着いてて、がさつな俺なんかとは違う。  俺は頭をかきながら、デザートを前にうれしそうな大沼を見る。こいつは下戸で甘党だ。食うことが好きで、本当にうまそうに食う。でもガツガツ食うんじゃなくて、ゆっくり楽しく味わうって感じだ。四人兄弟で、食いもんに関しては早いもん勝ちや騙しあい、弱肉強食だったうちとは、全然違う世界で育ったんだろう。
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