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「……で、お茶しただけで帰っちゃったんスか?」  じとーっと不満げな目で俺を見る寺田。  月曜の昼休み、会社から少し歩いた隅田川テラスで。俺と寺田はベンチが空いてなくて、ベンチのそばの階段状になっている所に並んで座っていた。  今日も暑い。よく晴れて、川面に反射する光がキラキラしてきれいだ。左の方にはスカイツリーが突っ立っている。  寺田は、金曜の夜自分が帰った後、俺達がどうしたのか気になって仕方なかったらしい。話をするために外に連れ出され、チェーン店でサクッと飯を食った後ここに来た。しかも、こいつのおごりで。 「なにいい子ぶってるんスか、あれはどう考えても脈アリアリっスよ! 俺ならなんとかして、うちに遊びに行っちゃうけどなあ」  いい子ぶってる? 脈アリアリ? 冗談だろ?  「せっかく空気読んで、お邪魔虫はとっとと退散したんスよ? ガツガツ行かないとダメじゃないスか!」  って、なんで俺はガチめに怒られてるわけ? 彼女からの呼び出しって、嘘だったのかよ。カンペキな演技にすっかり騙されたわけか。なんでこいつ、そこまでするんだ?   たたみかけてくる寺田に、ポカンとしてしまう俺。 「先輩、恋愛はからっきしダメってタイプみたいっスね」  気の毒そうにため息をつく寺田。ムカつくけど、まったくその通りだ。俺はこれまで、誰かとつきあった経験がない。だから、俺なんかと違ってモテる大沼にコクるのが怖い。恋愛慣れしてない、カッコ悪いとこを見せたくねえんだ。 「……俺と大沼じゃ釣りあわねえよ」  ぼそりとつぶやく。なんだかやけにさみしくなる。そんな心を撫でるように、暖房みたいなぬるい風が吹き抜けた。川面のきらめきが胸に痛い。
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