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マジで、そういうことでいいのか? 大沼が俺を好きだって? じゃあ俺はこれまで、サインをことごとく見逃してきたのか? 寺田が察して帰るぐらいだったのに? いやそれ、勘違いじゃねえの? それとも俺が鈍すぎるのか?
「……っと、そろそろ戻らないと」
腕時計を見て、立ち上がる寺田。考えこみそうになってた俺も腕時計に目をやり、あわてて立ち上がった。気持ちを半分そこに置いていくような気分で寺田に続く。
階段を登り、ささやかな公園を突っ切って会社へと戻る。少し先にある長めの横断歩道を、誰かと並んで渡ってるのは大沼か?
「あっ、大沼さんだ。隣は……」
「大島専務だな」
横断歩道を渡る二人に目をこらす。大沼も大島専務も足が長くて、姿勢がいい。二人とも半袖の白いワイシャツに、似たようなグレーのズボン姿だ。専務が大沼の左肩に手をかけている。楽しそうな笑顔。
「そっか、大沼さんがなんでか大島専務のことに詳しかったの、個人的に仲いいからか」
寺田はなんでもなさそうに言うけど、俺は気が気じゃねえ。入社二年目の平社員が、専務と二人で昼? 親子ほど年違うのに、あんなに仲よさそうに?
「追いましょう」
俺と寺田は足早に、二人の背中を追って横断歩道を渡った。先を行く二人はそのまま柳橋の方に向かい、背中が日陰に入って見えにくくなる。
妙に心臓がバクバクしてる。たぶん暑いだけじゃない汗がだらだら流れる。この苦しさはなんだ? 嫉妬か?
「先輩、早く!」
足どりが鈍った俺を振り返り、寺田が小声で呼ぶ。距離的にも前を行く二人に声が聞こえるとは思えねえけど、そうしたくなる気持ちは分かる。
「大丈夫っス、変な仲だったら会社の昼休みに二人でランチなんかしないでしょ」
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